2021-07-01から1ヶ月間の記事一覧

練習

近所にある中学校の吹奏楽部の練習している音が聴こえてきたのは久々だ。土曜日は練習で、日曜日は休みなのか。校舎の二階か三階の開けた窓のなかから、合奏の音響が我々の歩いてる道端まで盛大に聴こえてきた。いつものことながら、その音が不思議な違和感…

デッドマン

ジャームッシュの「デッドマン」(1995年)が、テレビをつけたら放映していたのを久々に観る。もともと好きな作品だが、あらためて観て、やはりこれを自分は好きだと思う。良い悪いではなくて、観ていて、ただただ好きだ。 汽車の乗客がよそ者を見る目でこちら…

経験の交換

だれもが、最初の経験とそれ以降の経験、という順序から自由ではない。経験は必ず比較される。たとえば一九六〇年という年月を示す言葉があり、そこに固定された意味はないが、ある人にとってそれは最初の経験であり、別の人にとってそれはかつての反復であ…

見る子供

子供でも、見る力はある。というよりも、子供の時点で、見る力はすでに出来上がっているのかもしれない。子供が、大人のつくった作品を見て、ああこれは良くない、これは無残なものだ、この作者は自分の人生を、おそらくどこかで勘違いしている、いつかどこ…

括り

1920年代後半から30年代にかけて生まれた世代は、戦時下の国内で幼少時期を過ごし、従軍させられる手前で終戦したという人が多い。彼らの世代の原体験や原風景が、その後の社会が根底に溜めこむ欲望の源になったという気がしていて、その世代の書き手のモチ…

休日朝

毎日寝る時間と起きる時間をAppleWatchに設定してあるので、寝る時間が近づくと、そろそろ寝る時間だぞと催促され、時間を過ぎるとAppleWatchもiPhoneも薄暗く「消灯」してしまうので、消灯時間を過ぎてスマホに触れることに、軽いうしろめたさを味わう。 目…

佐々木、イン、マイマイン

内山拓也「佐々木、イン、マイマイン」(2020年)をDVDで観た。 佐々木、かつてこういう人は、たしかにいた。そう思わせる存在感だった。全裸になって騒ぐとかそういうことよりも、数人で無為な時間をただ寝そべってやり過ごしているだけのひとときの、誰が誰…

無制限

妻が用事で出掛けて、朝から自分一人だけの休日の朝に、これから何をしようかと思って、何も思い浮かばない。本の続きを読む気にならず、外に出掛ける気にもならない、何もすることがなかった。それで、けっこう焦った。これからどうすれば良いのか、そのこ…

小説のなかで、登場人物が直接何を言ってるかよりも、登場人物がそれを言える状況であり、その言葉が広がる場であり、それで何かが変わると信じられた、それをかりそめにでも可能にした条件とは何だったのか?描写ひとつにしても、今そこでそれに着目し、そ…

コンビニ店員、図書館員、駅員

地元や会社近くのコンビニなど、くりかえし利用するコンビニの店員のことを、どんな外見のどんな人物であると、いまはっきり思い浮かべることはできない。おぼえている人もいることはいる。というか、何年も前からいる人だとさすがに顔までおぼえている。店…

化膿

右手中指の指先、ちょうど薬指と隣り合うところの、爪に近い箇所に小さな切り傷をつくったのがたしか先週くらいだった。処置が必要とも思わなかったのでそのまま放置していたのだが、それが先日から妙に痛みが増してきて、あらためて見ると、いつのまにか周…

色川武大『百』収録の「ぼくの猿 ぼくの猫」「百」「永日」いずれも、父親という存在についての小説だった。 わが父も亡くなってすでに三年余りが経つけど、父親について思い起こしたり、考えることは少なくない。我ながら意外なほど、父親のことを思い出し…

disintegration

夜になっても、まったく気温が下がらない感じだった。暗い夜道を歩いているとき、いま聴くべき音楽はピアノだなと思う。というか、坂本龍一 『async』収録の「disintegration」だなと思う。というか、すでにそれが頭の中に鳴り始めてしまう。 フリースタイル…

ビール

早めにと思って、午前中に買い物しても、すでに外は暑いので、けっきょく帰宅後は汗だくになっているので、着替えてシャワーを浴びるので、そのあと結局、ビールの栓を抜いてしまう。まだ正午を少し過ぎたあたりから、そのペースで飲みはじめてしまうので、…

理容

久々に、理容店に行きたいと思った。髪を短くしたいのはもとより、なによりも理容師の剃刀による顔剃を、久々に体験したかった。午前中から真夏の太陽が照り付けるなか、徒歩で駅前の店に向かった。 人気のある店だということはわかっていた。だからあらかじ…

連笑

色川武大『百』より、「連笑」を読んだ。良かった。しみじみと、感傷だけではない渇いた抒情感がすばらしい。 兄の立場、気持ちというのは、こういうものだろうか。常に心のどこかで気にかかっている、自分が庇護しなければいけない、もし何かあれば、自分が…

ワイプ

「あ、ど忘れした。あの、国全体で、ビタッと店とか人の行き来を遮断するやつって、なんて言ったっけ?」 「あー、なんだっけ、わたしも忘れた。」 「やばい、まじで思い出せない。なんだっけ? …シャットダウンじゃなくて、ワイプアウトじゃなくて…」 「あ…

場所

作品を作ったら、作った人は、それを作る前と作った後とでは、もう別の人になっている。作った人は作ってしまったら、もう作る前と同じ場所から、その作品を見返すことはできない。作品が完成したということは、それを作った人は、それを作っていた場所をす…

日曜日の自宅で見た、午後から夕方にかけての空、窓の外が、映像のようにゆっくりと動いていた。空が不安定だ。空が動き、とてもゆっくりと攪拌され、渦を巻いている。止んでいた風がふたたび動き出すと、遠くに雷鳴が響くのだ。この空の鳴る音。いま、この…

伝心

ずっと家にひきこもって、午前と午後に郵便受けをみて、広告などの郵便物にまじって私信が届いていると、それがとても嬉しくて、丹念に何度も読み返して、すぐにも返信を書こうと思うのだが、それがなかなか果たせず、結果いつまで経っても返信できない。 そ…

ロスレス

Apple Musicの音源が先月あたりからロスレス・ハイレゾ対応したので、曲によってはその表記が画面にあらわれるようになった。たとえばiPhoneからの音をふつうに出力した場合、品質アップした音源だと有線の場合48kHz/24bitに、ブルートゥース経由の場合48kHz…

しのぎ

図書館で色川武大「戦争育ちの放埓病」をたまたま手に取って読みはじめて、そのまま借りてきて今日はこればかり読んでる。 何かとてもなつかしく、かつて居た場所を思い出させてくれたような気持になっていた。断っておくがもちろん僕に色川的な賭場経験など…

週末食事

我が家のルールとして、金曜日の夜は、夫婦各自で夕食を調達することになっているので、帰宅時の最寄り駅に着くと、僕は駅前のスーパーに寄るのだが、いつものことながら金曜夜のスーパーマーケットの食品売り場というのは、控えめな表現を選んでも壊滅的な…

携帯

僕が携帯電話を所有したのは1995年で、当時はまだ学生で、社会人でもないその年代としてはけっこう早い携帯電話所有者だったと思う。携帯電話などべつに一ミリも興味なかったのだが、当時のバイト先にいた人が熱病に罹ったかのように携帯電話にハマり、いき…

渋谷陽一

渋谷陽一といえば、新潮文庫の「ロック ベスト・アルバム・セレクション」1988年刊。高校生のとき、今はもう影も形もない三鷹駅前の本屋で、予備校に行く前だったか、後だったか、立ち寄って買ったのを、今でもなぜかまざまざとおぼえている。今の三鷹駅前の…

朝になって、お定まりのごとくしとしと雨が降っているのがわかると、今年はいったい、どういう風の吹き回しなのか、梅雨の季節だからといって、なぜとつぜんとりつくろったかのようにきまじめに毎朝、雨を降らしているのかねと、問いただしたくなる感はある。…

ニュー

親がちゃんとしてない、先生がちゃんとしてない、上司がちゃんとしてない、…みたいなことは、誰でもが感じることだし、それはそういうものだ、しょせん人なんてそんなものだ、と思っている。家だって、学校だって、会社だって、制度だって、仕組みだって、行…

じっとりと地味に、しかし確実にすり寄ってくる湿気、外に響く雨音、狭い玄関の内側に無理やり広げて干されている濡れた傘、乾燥をうながすように立てかけられた靴、シャワーを浴びて身体を拭いて、着替えて戻って来たときの、部屋の空気と洗ったばかりの肌…

立ち話

休日の夜は遅くまで起きていることが多い。今日もそうだった。自分の部屋を出て、なるべく物音を立てないようにして、冷蔵庫の前まで行き、扉を開ける。冷蔵庫内側の光が部屋をほのかに明るくする。物の下に隠れたビールの缶を取り出していると、背後で物音…

トンカ

ムージルの「三人の女(トンカ)」を読み返していた。この物語には、ある意味トンカという人物が、出てくるわけではなくて、トンカという人物を立上らせようとする、何者かによる、その懸命な努力を刻んでいる、という感じがある。トンカは、ほとんどあらわれ…