2022-08-01から1ヶ月間の記事一覧

ピノコ生きてる

寝る前に、酒を飲みながら、久々に「ブラックジャック」の単行本を適当に読んでいたら、ある話を読んだ時点で、涙が止まらなくなって困った。いま、それがどの話だったのか思い出せないというか、それがどの話だったのかは、もはやわりと、どうでもいいのだ…

報い

たぶんいそがしかったのだと思う、と、ひとまず書いてみた。 ただし、こういうことは、意外と、なかなか思い返せないのだ。忙しかったという感想を書くことはできても、その内実は書けない。書いたら、その内実になるかもしれないが、それが忙しかったという…

シャインマスカット

シャインマスカットを贈ってもらった。ありがとう。うれしい。この果物が、スーパーやデパートの果物売り場にとんでもない値段で売ってるのは知っている。さすがにちょっと、手が出せないと思わされる迫力の値段だ。果物はどれもこれも総じて高いけど、シャ…

自己根拠的持続

「画家のノート」でマチスはアンリ・ベルグソンの哲学に近い考えを示している。ベルグソンの『創造的進化』は一九〇七年に出版され、非常な成功を収めた。幾人かのマチス研究者が指摘したように、ベルグソンの思想は知識人たちの間で広く話題になっており、…

やさしい人

渋谷ユーロスペースでギヨーム・ブラック「やさしい人」(2013年)を観る。映画に、説得されたり納得させられるというのは、そのどんな要素によってなのか、そのことを考えさせられる。(以下ネタバレを含みますのでご承知ください。) そうか、そうなるのか、そ…

リコリス・ピザ

TOHOシネマズ シャンテで、 ポール・トーマス・アンダーソン「リコリス・ピザ」(2021年)を観る。ちょっと、…予想をはるかに超えて素晴らしかった。 この映画が再現している「過去」とは、意匠としての、たとえば70年代初頭の景色とかファッションとか諸々の…

教育

男性がはじめて女性の裸を知る機会は、ほとんどの場合、母親の裸を見てだろう。ほとんどの男は、女性の裸身の原初イメージを母親によって得るのだと思う。 もちろん母親の裸体を一度も見たことがない、あるいは記憶に留めないまま生きる男もいるだろう。たと…

リモコン

テレビとかAV機器のリモコンは、これはあと二十年くらいしたら確実に「昔っぽい」「平成~令和初期の香り」とか言われて、懐かしがられるアイテムの筆頭に違いないと思う。なにしろ今部屋にあって、これほどうっとうしいものはないというか、まったく目障り…

黄色い車

大昔の記憶だ。たぶん低学年、あるいは小学校入学前かもしれない、だとすれば70年代半ばから後半あたりか。 自宅を出て坂道をあがったすぐ左手に、小さな家があった。今の感覚からすると、驚くほど狭小な住居だ。木造平屋建の、中を見なくても外観だけでおよ…

二つの作品

ギヨーム・ブラック「遭難者」は、「女っ気なし」と同時期に同場所で撮影されたものだ。それは「遭難者」の冒頭に字幕によって説明される。しかしどちらが先に作られたのか、まではわからない。とはいえ上映の順番が「遭難者」に続けて「女っ気なし」なのだ…

遭難者/女っ気なし

渋谷ユーロスペースでギヨーム・ブラック「遭難者」(2009年)「女っ気なし」(2011年)を観る。ギヨーム・ブラック作品初体験である。とても面白かった。他の作品も見てみたいと思った。夏にはバカンス客が訪れるようなフランスの海辺の町が舞台でそこはロメー…

WANDA/ワンダ

渋谷イメージフォーラムでバーバラ・ローデン「WANDA/ワンダ」(1970年)を観る。面白かった。冒頭の石炭の採掘場だかの荒涼とした景色、土木車両がひたすら大きな音を立てて駆動している。その外れにぽつんと建つ一軒家。そこがワンダが両親らと暮らす家のよ…

ドレミファ娘

映画というのは、まあ映画に限らないけれども、見れば見るほどわからない、わからないと思うならまだましな方で、わからないことがわからなくなって、そのことでむしろ、あえて自分の視野を狭めてしまい、もうこの場所から動かずに定点観測でかまわないと居…

青い皿

皿の少し欠けた箇所に似た色のアクリル絵の具を塗って誤魔化す。青い色の皿で、欠けた箇所はわずかだが、地の乳白色が見えてしまって目立つのだ。皿も単調な青ではなく釉薬の塗り斑や色合いの複雑さがあって、混色によって似た色合いを調整する必要がある。…

若者

酒を飲んで泥酔している、馬鹿でだらしない、二人の若者が、奥のテーブルにいた。店を出てすぐの階段の途中で、一人が派手に転倒した。すぐに起き上がって、呻きながら席に戻った。大量の出血痕が残されていて、血がぽたぽたと汚らしく、階段から店の入り口…

「これは絶対面白いはず!」「誰がなんと言おうが、これはうつくしい!」と、ほとんど根拠なしに、その美的価値を信じられるというのは、それだけで美徳だし、能力だ。その幸福感をともなった思い込みの力をうしなってはダメだ。 このこと自体は、ほとんど信…

相手

世の中がどんどん悪くなるので、死ぬ覚悟を決めなければと思う、とする。戦うにせよ、戦わないにせよ、死の覚悟(殺される覚悟)は必要である、とする。 たぶん、死ぬ覚悟を決めることはできるだろう。過去の人々がそうであったように。ただしその覚悟には「と…

イギリス風

ヴァージニア・ウルフの「3ギニー」を少し読んでいて、ウルフの文体と、チャンドラー(フィリップ・マーロウ)の文体が、意外と似てるじゃないかと思った。 「どうすればわれわれは戦争を阻止できるとお考えですか?」その質問に、ウルフはいきなり回答するこ…

マーロウ

午後、猛烈な雨。水煙が白くもうもうと立ち昇って周囲を煙らせる様子をベランダから見下ろす。このあと暴風域かと思いきや、雨はあっさりとやんで、時折風の音が遠くに聴こえる程度で、ほとんど平時の天候と変わらない夜だった。 チャンドラー「長いお別れ」…

ルネ、緑のハーモニー

竹橋の美術館の常設展示で、今展示されている新所蔵作品のボナールの絵の向かいに、マティスの小品(ルネ、緑のハーモニー)が掛かってる。この場所に来ると、ボナールとともにこの絵もじっくりと見るのが、ここ最近の自分の必須事項である。 この絵に限らない…

リヒター

竹橋の近代美術館で「ゲルハルト・リヒター展」を観る。決して広くはない印象の、なんとなく圧迫感を感じさせられる会場内に、年代も傾向も様々な作品たちが、わりとぎっしり狭い間隔で並んでいる印象。先日佐倉の川村記念美術館に行って、その会場の広さと…

裁かるゝジャンヌ

ザ・シネマメンバーズで、カール・テオドア・ドライヤー「裁かるゝジャンヌ」(1928年)を観る。有名な映画だ。ほぼ顔のクローズアップだけで出来ている映画。誤った信仰をあらためさせようとする教会や王様関係者たちに取り囲まれた状態で、ひとりだけ天上を…

流行

あれが流行ってるとか、これがとか、どのように知るのか。今でもよくわかってないけど昔のほうがもっとよくわかってなかった。コーネリアスの「FANTASMA」が出たのが1997年、当時これが、僕にはまったく刺さらなかった。なんか噓くさい、浅すぎるし表面的過…

先週あたりから朝の通勤電車内は完全に夏休みモード。 子供の頃、剥いた桃の果肉の表面を見ていて、それがまるで人間の皮膚がひどく炎症を起こしたありさまに見えて、それ以来、桃を食べられなくなったことがあった。 果物が奥底に隠し持っている、皮膚感覚…

煮る

鍋に火をかけて、ときどき状態を見て焦げ付かないように気を付けながら、一時間近く煮る。その間、鍋の傍で、椅子に坐ってビールを飲みながら本を読んでいるのは、楽しいことではないかと思いきや意外とそうでもなくて、じっさいそうやって本に目を落として…

蝉が網戸に止まった。動かずじっとして、自分の腹や足の付け根をこちらに見せつけるようにしていた。その後、少しだけ移動する仕草を見せた。か細い足をぎこちなく動かして、ほんの数センチばかり網戸をよじのぼって、再び静止した。 やがて、次第に大きくな…

山の音

Amazon Primeで、成瀬巳喜男「山の音」(1954年)を観た。いつも思うけど、原節子という人物、この外貌の微妙さ…。まるで白いお面を貼り付けたかのような、ほんとうにこれで良いのか、うつむいて、うふふと笑って、曖昧な語尾の消え入るような喋り方で、それで…

海の沈黙

Amazon Primeでジャン=ピエール・メルヴィル「海の沈黙」(1949年)を観る。主人公のナレーション主体で話が展開し画面はそれに付き添うような、映画というよりは映像付きの小説みたいな感じだったが、何年か前に読んだ原作をひさしぶりに再読したい気持ちに…

侵攻

侵攻されるとはつまり、自分の家に、他人が土足でずかずかと上がりこんでくることだ。だから家主は、そんなことさせるかとばかりに抵抗する。覚悟を決め、腹をくくって、玄関のドアを破ってなだれ込もうとする者に対して、なけなしの武器をもって立ち向かう…

夏暮里朝

「フジロック」という言葉がブログタイトルに三日連続で並んでると、どう考えてもフジロック行った人みたいだけど、単に配信をちょっと見ていただけというのは、我ながらどうなのか…と思う。 朝、西日暮里駅のホームで、屋根の日影は左手の山手線側に斜めに…