Jimi Hendrix「Jimi Plays Monterey」



エレキ・ギターほど素晴らしい楽器は、この世に存在しないだろう。なにしろまず「エレキ」って名前が素晴らしい。死ぬほどいかす。あとあの形のいみがわからない。勿論あの切り込みのおかげでハイネックポジションに手が届きやすいのだし、膝に乗せた時の安定感も重要なんだろうが、それはまあタテマエな話で実は単にエロくしたいだけな、すごいモノを考えて無さそうなフィーリング感が溜まらん。(いやほんとはそうじゃない機能美なんでしょうが)


「不良が弾いてるエレキ・ギター」(エリーゼのために@忌野)のイメージは、東京以外の各地域でも、きっと80年代前半には、もう無くなってしまっていたのだろうが、そういえば僕が子供の頃「そやけどエレキギターっちゅうもんは、なんであげにヤラシイ音がするんやか?」と父は言っていて(実際は方言じゃないが)、その昔、確かにエレキは僕らが住むこの世界とは本質的に相容れない、本来、常識的世間と齟齬をきたすような異界からの異音であったのだって事が、軽く思い出されたりもする。


物心ついた幼少の頃、エレキギターが持っているいかがわしさを最大限に感じさせてくれたミュージシャンは、ジミヘンドリクスであった。などと言ったら「なんて早熟な」とかカッコよく誤解してもらえそうだが、まあ当然そういう意識的なリスニングではなく、なぜか付いてたテレビで偶然観てしまったのであろう。そのあたりの経緯はまったくさっぱり憶えていないが、とにかく子供であった僕は、なぜかジミヘンドリクス1967年のモンタレーポップフェスティバルにおける「恋のワイルドシング」演奏と直後のギター放火&破壊パフォーマンス映像を、偶然観てしまったのだった。


もちろんその当時は、これが一体何で、どのような意味をもつのかも、このヘンな人が誰なのかも、全く判らない。ただ薄暗いところでひどい色の服を着た男が異様な行為を為している映像と、唖然とする女の子のぽかんとあいた口のまんまるが、胸の裏側にどんぴしゃりと焼き付けられてしまったのである。


で、さらにその後、僕は高校生くらいから、主に60年代アメリカとイギリスの音楽ばかり集中的に聴くようになる。なぜそのような古いものばかり聴くのか?としばしば周りから聴かれたが、幼少の頃の衝撃の詳細を再度確認したい。という思いが強かったからだと思う。この気持ちは20台前半まで続いていて、やがて、さすがに埃臭いものばっかり聴くのも飽きてきて、いろいろ何でも聴くようになるのだが、その何でも聴き始めた頃っていうのが当時最新のサウンドを聴くだけで、それが歌謡曲みたいな音楽的には全く面白くないモノであっても、ものすごい音質の良さと音の厚みと立体感に、体が飛ばされるような驚きを感じたものだった。(とはいえ、90年代以降の音楽は、大体60〜70年代を焼き直している感が強くさほど違和感が無いとも言える。80年代のあのスネアの音のでかさとリバーブの深さの方が、今の音楽との異様な断絶を感じる。)


さて、ここでの演奏だが、メタル津軽三味線と呼びたいイントロでキリングフロアーがスタートしてから、最後のワイルドシングがステージ崩壊という形で幕を閉じるまで、今聴いても圧倒的な迫力に満ちている。


ちなみに高みから急激に降下するようなスピードで即物感満点のリフと、タンゴのようなガ!ガ!ガ!ガ!というリズムの刻みが印象的な「ロックミーベイビー」が、高校生の時の、青春真っ盛りな僕一番のお気に入りでした。