男子

元日の森閑とした雰囲気の住宅街を歩く。元日の日中はその静けさがそれなりに特別な感じ。もちろん駅前や繁華街の印象はいつもとあまり変化が無いが、居住区に来るとやはり静かで、全てが非活発化していて、まるで日本人全員が喪に服してる感じにも思えて、その想像に浸るのが楽しい。表札に刻まれた、だいたい漢字二文字でできている様々な「苗字」の字を見つめながら、ひっそりと静まり返った玄関先をいくつも通り過ぎて、やがて大きな通りに出て、そのまま駅前にたどり着く。改札を抜けてプラットホームで快速電車を待つ。重い手提げ袋を足の間に下ろして、かじかんだ手をこすり合わせる。寒さは深く厳しい。冷気が足元から身体の中心部にかけて差し込むように上ってくるので、思わず身体が震える。


電車に乗り込むと車内はすいていた。シートの背もたれの色が車両の向こう側までずいぶん見えていて、座っている人はまばらに点在しているのみ。一角には中学生くらいの男子が3,4人固まって熱心にお喋りしている。まだ声変わりするかしないかくらいの中途半端の声色で、とにかくのべつ幕なし止め処も無く喋る。とても些細な事を、ムチャクチャ面白い事であるかのように活き活きと喋り、それを受ける側もぱーっと炎が引火するかのように反応し、笑い、瞬時にその話に乗っかって、そこからさらにべつの話を矢継ぎ早に上乗せしていく。もう話したい事はいくらでも、尽きぬ程たくさんあって、それらのぶつけ合いにかかるコストはお互いほぼゼロで、全員がほとんど自動的に、全然苦も無くいつまでも楽しい気分の中で、その楽しい気分を継続させていくという感じ。冬休みの中学生。大晦日から元日にかけて友達と遊びにいく中学生。でも、きっと楽しい時間はすぐ終りだ。あっという間に、何もかも終わる。でもさっきまで夢中になっていた事からはなれて、我にかえって目を上げれば、やっぱりいつまでも、何もかもがずーっと、楽しいことばかりにしか思えないのが中学生だ。