テレビのチャンネルを切り替えていたら、急にジーナ・ローランズが。カサヴェテスのグロリアだ。あてもなく街中を彷徨っている。苛立たしそうに、忙しなく、あたりを見回して、子供を呼んで、背中を押して、早く歩けと急かし、背を少し屈めて、自分も足早に歩き去る。狭い階段を上がって、ガラスのドアをあけて、日当たりのある、人々が行き交う場所に出る。薄手のスカートの裾がはためく。道路の向かい側の様子を見る、その目の前をなんの関係もない通行人が視界を遮るように歩く。少し後ろに下がる。突っ立っている。そこに、急にジーナ・ローランズが。路上にいる。腰に手をあてて。胸元が大きく開いて、少し疲れたような首元の素肌を晒して、あたりを見回す。後ろに、景色がある。雑踏である。白い光が落ちている街の中の、車道と歩道、街路樹、信号である。人の行き交っているのが、車の通り過ぎていくのが、黄色いタクシーが何台も、また何台も。ジーナ・ローランズの顔のアップが。視線がゆっくりと右から左へ。口が少し空いた、広い額にも目尻にも口元も頬の下側にも深い皺と蔭に覆われて、ブロンドの髪が、細い足と、高いヒールが、地面に突っ立つ、二本の足の、そのあいだにも向こう側の風景が。微風がそよぐ。この、やばい情況下で、ふらふらとひたすら彷徨い歩く。よるべなさ。この支えるものの無さ。この、異様としか云い様のない映像。それが延々と続いていて、ほとんど目が離せなくなってしまう。