五月は早かった。まだ、過ぎ去らないでほしい。寒くもなく暑くもない、絶妙な気温の日々がいとおしく、いつまでもこのままであってほしい。夜になると、この好ましい空気に触れたまま、ゆっくりと座って酒や食事ができたらいいなあと思うが、そんな店を探すのもなかなかたいへんで、そんなに悠長に街中をうろうろしてる時間もなくて、結局、家に帰ってきてから、窓をあけて風がすーっと入ってくるのを見ながら過ごしていると、意外とそれで、今その瞬間がかなり思い描いた理想に近いことに気付いたりもする。なにしろ、とくに夜からの、風と空気がほんとうにいい。なるべく身体が外に触れたままで、中のことをしているのが、この時期は一番正しい態度のようだ。なるべくそういう空間の下にいた方がいい。