送別会が終わって、終電間際の電車に乗って帰る途中、もう寝ないとまずいと、そう思っていた矢先に、電車があと少しで駅に着くところで急に停車して、いきなり車内の照明が消えて暗くなった。運転席の方から、切迫感のある警報音がずっと鳴っている。周囲の乗客が皆、何事かと思ってあたりを見回している。話し声はなく、ざわつきもどよめきもなく、ただ静かだ。車内の蛍光灯は、真ん中へんにあるひとつだけがぽつんと点いているだけで、車内はほぼ真っ暗で、そこにいつものように乗客がそれなりに密集した感じで乗っているので、かなり不思議な、違和感がものすごい感じがする。あちこちでスマートフォンや携帯の液晶画面だけが、平坦な光を放っている。かなりの暗さなのに、頑張って漫画雑誌から目を離さない人も多い。電気と、あと空調も止まってしまっているようで、だから余計に、車内が静かだ。何の物音も無く、誰も何も言わない。静かなのだ。そのうち、何か音が聴こえてきたと思ったら、向かいの線路を電車が近づいてくる音だった。かなり遠くからでも、よく聴こえた。電車が近づいてくると、こんな音がするのかと思った。それが通り過ぎてしまうと、また静かになって、また暗闇になった。電車は、いつものあの、出発直前に車体下部から漏らすため息すら今はつかず、ひたすら沈黙し続けている。そして照明も復旧しないまま、気付くと電車がゆっくりと進み始めていた。しかも、音もなくだ。まるで惰性で、ゆるい下り坂をゆっくりと下りているかのような進み方だ。まったく無音のままで、ぬるーっと、電車が進んでいる。窓の外の景色がゆっくりと流れていく。踏み切りに停車しているタクシーが見える。その車内が煌々と、まるでコンビニの店内のように明るい。しかもその座席にいる運転手が、真っ白な、不思議そうな表情でこちらを見ている。我々の乗る電車はおそらく無人の回送電車のように暗いだろうが、車内には人がぎっしりと乗っているのだ。この暗闇の中で、音もなく移動している我々を乗せたまま、この電車がどこへ行くのか、どこで止まろうとしているのか、あるいはこうして動いていて問題ないのか、何がなんだか、さっぱりわからない。いったいどうしたのか。これからどうなってしまうのか。