桜が風で雨のように降ってくる。ああ、桜の中を歩いている自分だなと思っている。何も見ていないときに、着ているコートの黒い色が、あらためて黒さとして目に入ってくる。桜と黒を見る。ピンクと黒。この色。はて何やら過去の記憶が、と思って、これはもしや、何年か前に買った服の色の組み合わせか。そういえば当時、店の品揃えがすべてそんな色のパターンばかりだった。僕は店をふらふらしていて、黒とピンクばかりの、今思えばあんなつまらないものを買ってしまって、あのお金は勿体ない。色に酔っていい気分で金を払って、ばかでかい紙袋を下げて帰って。だらしなく欲望のままに消費するのは楽しいものだ。何かに仕えること。忠実であることの安心感。何年か前、それほど昔ではないが、でもやはりもう昔だ。これも思い出としての、かつて自分に作用していた何かだ。その意味も今は完全に漂白されて、白々とした黒とピンクが今ふいに再来した。おばけが出たように。おばけとは、実際こんな感じのものではないのか。お前、誰だっけ?と言いたくなるような。空と地上に境目のない灰色の日。