夏鹿


赤紫色の、うつくしい断面。ナイフの刃を受けて、かすかに抵抗しながら、あっさりと小片になる。口に運ばれる。ワインに流し込まれる。またワインを…ワインを、がぶがぶと飲む。見よ、まるでワインが水のようだ。脂の多い魚に山葵がまったく辛くないかのように、とはちょっと違うけど、まるでそんな風にして、芳醇な肉と一緒だと赤ワインがまるで水のように体内に流れ落ちてしまって、際限なくいくらでも呷ってしまう。今日は良かった。最初から最後の皿まで好調だった。