明暗


傘を挿さなくてもあまり気にならないくらいの細かい雨粒が音も無く降っている。歩道橋を歩きながら見上げると、目の前に建つビルが雲に隠れて上の方が消えてしまっている。これほど巨大なのに、消えてしまうだなんて、一体どういうことだろうか。よくよく考えてみると、すごいイメージだなと思う。消え方も、じつに見事な、肌理の細かいグラデーションを経て周囲と同化してしまっていて、こんな風にきれいに白からグレーへの諧調を出すのは、なかなかすごいことだというか、かなり抽象的で計算的な感じさえする。明から暗への移動、進行の段階として、こういう雨の日になぜか妙な正確さ、律儀さを見せるあたりに、人間が明暗に惹かれることの理由があるのかもしれない。