皆既


朝起きると、まず喉が痛い。喉の痛みで意識が覚醒する。苦しみと共に目覚める朝、今はもう慣れてしまった。咳・鼻・喉である。しかし、ただそれだけだ。たかがメインカメラをやられただけである。今日をピークに明日以降症状が下降線を描くイメージを予想する。根拠はないが、イメージを描くだけなら根拠は必要ない、むしろ根拠の下支えを持たぬイメージをどのように描くことができるのか、そもそも根拠がないイメージとはどのように成立するものなのか、人間に認識可能な根拠をまるでもたないイメージは成立可能なのか、じつにつまらないことを書いている。皆さん、既月食見ました?見ました。帰りの空を見上げたら、さっき曇ってたのに、そのときだけ、ちょうど月が出ていた。十時過ぎになって、次第に翳り始めた。でも僕の目にはすでに左下の形状が、九時半を少し過ぎたあたりから変わり始めたように見えてはいた。きれいな円形が、ほんの少しだけ、左下だけ、真っ直ぐな線になっていた。まるでコンパスで正確な円を書いたのに、誤って一部だけ正しい弧が描かれなかったような状態だった。少なくとも僕が見上げたときはそうなっていた。根拠はなかった。そう見えたというだけだった。