「処刑の部屋」


処刑の部屋 [DVD]



若いときの川口浩の姿をぼーっと見ているだけで幸せになれる、というくらいの勢いがないと付いていけない。観続けながら薄っすらと漂う不愉快さを耐えるしかないような感じ。


上半身裸で足を大股に開いて仁王立ちになって若尾文子に対峙するときのポーズや、顎を突き出して首のあたりの筋肉の盛り上がりを露にして、ギョロっとした目でこちらを見るときの表情とか、頭脳も明晰で肉体も健全で、かつドン臭い旧態依然とした周囲への遠慮とか配慮とかを全然しないような勢いのある、そのあたりに「新鮮な悪」とか「理解を超える新しさ」とかを読み取るべきなのだろうというのはわかる。でも比較されるべき家族とか学校の先生とか友達関係とか、主人公を取り巻く登場人物なんかもイマイチよく判らない人々ばかりで、反社会的・悪徳的なモチーフがあんまり輝かない。単につまらない人々がたくさんいて、その中のとりわけ性格の悪いひとりが駄々をこねているという印象で、独自な輝きを放つ猛烈な悪とか反抗とか疎外感とかそういう感じでもなくて、ただむしゃくしゃして何となく「俺は絶対にやりたい事をやってやるんだ!」とか云いつつ、わざわざ映画で観せるほどでもないような悪戯をしてる感じなので、何か全体がしょぼくて困惑する。


反抗しつつも可愛がられたい、認められたい、という気持ちを捨てきれないまま、コケオドシとハッタリで無理やり行ってしまう手つきというのは、まあ犬も食わないのが普通だが、僕なんかはまあ、そういう態度そのものには少しだけ、愛憎半ばするような思いも無きにしもあらずなのだが、でも毎日のようにこんなのばっかり観てたら嫌になるよなあと思った。


ちなみに途中で新宿の街並みが出てくるのだが、新宿武蔵野館とかゲーセンの何とかスポーツセンター(現在の通称:蟹スポ)の看板が見える。50年前からあったとは…。