日比谷の野音で山下洋輔トリオ


「結成40周年記念!山下洋輔トリオ復活祭」というのがやる、ということを知ったのが先週で、あわてて日比谷まで行ったら開催日は今日なくて19日だった、ということですごすごと帰ってきた。…というのが先週の日曜日の事で、で、それから一週間が経ち、今日はいよいよ19日になりました。なので、今日はふたたび日比谷野外音楽堂に行って、いよいよ山下洋輔トリオを観ることになった。


2:45から当日券が発売されて、その後、開演が5:00からでかなり時間があったので、その場でビールを飲みながら空や行き交う人々を見てたりしたら、あっという間に5時になったので、それでやっと入場した。連日同様、今日も暑いが、少し風もあるのでそれほど悲惨な灼熱のコンディション、というわけでもない。


自分にとっての山下トリオはなんといっても第二期(山下・坂田・森山)であり、要するに「クレイ」というとてつもない怪物のようなレコードの衝撃がほぼすべて、と云っても過言ではないくらいであり(昔書いた文章がここに)、このレコードが僕にもたらしたものはあまりに大きく、おそらく僕にとっての「音楽」と呼ばれるものの何割かというのは「クレイ」によって培われたものであるとさえ云える。そのほかにも「キアズマ」「Up-To Date」などの大傑作アルバムを貪るように聴いたものだ。第三期(山下・坂田・小山)も同様で、圧倒的というよりほかない「モントルー・アフター・グロウ」や「ホット・メニュー」あたりまでは一音一句までおぼえてしまっていると云っても良いくらいだ。


とはいえ、今の相応に歳を重ねてしまったメンバーによって山下トリオが復活したからといっても、レコーディングされて残っている当時の演奏が再現される筈はないと、誰もがわかっているし、これはお祭りであり、お祝いなのだから、とにかくこの伝説のトリオを一度でも肉眼で見られさえすれば、今日の目的はほぼ達成であると思っていた。


でも、…まあやっぱり、山下トリオは超・カッコイイですね!!!山下洋輔のやっている事はもはや様式美だろう、などと云うようなセリフは少なくとも実際にあの演奏を聴いてしまうと、とても云えない。もちろん、ずいぶん節度をもった、ある意味すべてをわきまえたような「大人」なドシャメシャぶりなのだが、でもその音ひとつぶひとつぶに、全身鳥肌状態で総毛立ってしまい、アタマの中が真っ白にさせられてしまうのは、僕だけではないのがよくわかった。山下トリオはまだ全然生きていた!


あと菊地成孔という人は本当に偉い人だとつくづく思った。「今日のお客さんの中には、山下トリオに打ちのめされて、レコードにあわせて弾けないピアノを無茶苦茶に弾く真似をしたり、ドラム叩きまくったりした事のある人がいっぱいいるでしょう。…僕もそうです。僕はレコードというレコードは全部聴いて、本とかインタビューも全部読んで、何もかも知り尽くした状態で、山下洋輔さんや他の皆さんに会ったんです。だから僕は、観客の皆さんの代表のつもりで、ここに立っています。」などというセリフをさらっと云うあたり、なんて上手い事云う人だ!と思ってちょっとマジで感動した。僕なんかはジャズと言っても良いと思ったものにしか興味なくて、日本のジャズとかも、たとえば相倉久人氏のああいう感じの司会ぶりとかを聞いてると、やーこれはちょっとどうなんだかなーと思ってしまうところも若干あるのであるが、でもそれが日本のジャズなんだろうなあとも思うし、その意味で菊地成孔氏という人があのステージでものすごく沢山の人同士、歴史と歴史をつなぐ媒介みたいな役割に思えて、きっと本人もその責任感みたいなものに突き動かされているのではないか?という感じすら感じられた。


野音に来たのはかなり久しぶりだったのだが、でもやっぱりあのPAの音はさすがにあまりにも迫力が無さ過ぎに思った。もちろんもっとステージ近くなら、少しは違うのだろうが…。っていうか、よく考えてみると野外でジャズを聴くのなんて15年ぶりだという事に気づいた。(Mt.Fuji以来!)


第二期山下トリオが「クレイ」「キアズマ」と続けて、キアズマの坂田ソロが終わるあたりの頃、少し薄暗く青みがかった空に素晴らしくくっきりとした虹が架かった。しかも二重の虹。なんだか「磯崎的/決定論的」な出来事であるかのようで山下のソロを聞きながらいつまでも空を見上げていた。…その後、第三期トリオによる究極の「ゴースト」。これは個人的に今日の白眉。なにしろ坂田明ハナモゲラ絶叫がまったく衰えもなく空を引き裂くかのような勢いで野音いっぱいに満ち満ちた事に超・感動した。


まあ、でもこういう内容で、チケット8000円(当日券)は若干高いと思った。と、ここまで熱く書いてきたのに最後にそういう事を言い出すのもあんまりな感じだが…でもまあ、僕は山下トリオの現役時代を知らない訳で、そんな僕でもこうしてステージを観られた事だけでも感謝すべきで、その代金として考えたら、そのくらい「高価」なものなのかもしれないが。でも絶対買わなきゃ、という気にさせられるような内容のDVDとかも会場内に売ってて、それは5000円である。なんだかんだ言ってもジャズって高いのだ。昔のジャズは昔のままではなくて、というか、昔のジャズを昔のまま今再現させようとすれば、それは高価なものになるのだと言うことか。そういうジャズと、あと「高い店」のジャズは、高い、というだけの話かもしれない。(どちらも、その金額を払える層が客として来るから)まあ酒飲みながらラクして見てられるのだからセコい文句言うべきじゃないかもしれない。自分にはそんな資格もないし。…でも、あと、なんか客層とか、どうも痛い感じの連中もいるよなあと思う。とくに一部の50代か60代くらいの層。若いなら可愛げもあるけど、歳とってると実に見苦しいし見てるこっちが恥ずかしい。自分がさらに歳を取ったらなるべく静かにしてようと思った。