夜の花見


最寄り駅に着いたら午後11時近かった。途中のコンビニでビールを買って、ひたすら家路を急ぐ。そびえたつ公団住宅に囲まれた細長い公園の中を突っ切って行く。街灯もなく、公団住宅の窓から漏れる明かりが周囲をぼんやりと照らしているだけの薄暗い公園。しかし満開を過ぎてそろそろ散り始める寸前の桜が、いまわのきわの、すさまじい勢いで咲き乱れていて、まるで水に溶けて広がる水彩絵の具のピンク色みたいに、もくもくと頭上一帯を覆いつくすかのような勢いで広がっているので、それを見上げながら歩く。そしたら木の下に、真っ黒いベンチとテーブルがあって、その周囲に人がいる事に気づいた。そして、テーブルの上には、よくわからないが何か様々なものが並んでいて、それらを取り囲むように、ほかにも結構たくさんの人がいて、よくよく見ると、人は全部で10人かそこらいる。あたりが暗くて、夜に半分溶けかかっているくらいの暗闇の中で、テーブルを取り囲んで、10人くらいの人々がなにやらひそひそと話しをしていた。しかし暗いので、どんな人相なのか、どの辺の人たちか、若いのか年寄りか、男か女かも、よくわからない。僕には見えないけど彼らには、あの場所でお互い同士をそれぞれちゃんと目視しあえているのだろうかと疑問に思うほど、その一帯は暗闇に沈んでいるようにみえた。僕はその数メートル脇を通りすぎながら、注意深く耳をそばだててみると、低く音楽まで流れていた。これはおそらく、その音楽を聴いてテーブル上の物品で飲食しながら、ある程度リラックスしたひとときを過ごしている集団だろうと思った。おそらく10人かそこらの知り合いを集めて、暗闇に包まれながら皆で宴会をしているのだろう。桜も近くに見えるし、ああして皆で野外で飲食を楽しみながら桜を見たり夜の空気の香りを吸い込むのは、さぞ楽しいだろうと思った。