駅前


一時間に一本の電車に乗って、停車駅に降り立った。駅前にはロータリー。タクシーが数台。営業車が数台。分譲中のマンションの旗が風にばたばたはためく。如何にも秋という感じの刷毛で引いたような雲の青空。まばらな建物のシルエット。すべてが間延びして隙間だらけな、すかすかの空間。人を待つためにしばらくその場に佇んでいたら、何台かクルマが走り去ってしまった後、駅前とは思えないような、ちょっと驚くくらいの静寂が訪れた。いつまでこの静けさが持続するのか、固唾を呑んで待っていたら、やがてかすかに、軽快なエンジン音が近づいてきた。一台の軽自動車が、目前の駐車場に停まった。エンジンが停止して、また静寂。ドアが開いて、長い金髪にサングラスをした女性が出てきて、荷物を持って、そのまま駅入り口まで小走りに駆けはじめた。黒いスパッツに華奢なサンダルで走る。プラスティックのような軽さのカッカッカッカッカッカッカッカッカッカ、という音が、静寂に包まれた空間全体に響き渡って、余韻を残しつつ、やがて人も音も駅構内に消えた。その後タクシーが戻ってきたりして、ふと気づいたらもう静寂はなくなっていて、ふつうに駅前らしさが戻っていた。