不思議


元気だった?変わってないねえ、あれ初めましてだっけ?いや結婚式以来?って事はもう九年ぶり?十年経つかね?亮太君何年ぶりかしら。でもそこから入ってきたときすぐわかったわよ。あぁ亮太君よってすぐわかったわよ。お母様はお元気?お変わりない?今もまだ、あちらにいらっしゃるんでしょ?朋子ちゃんはもう結婚されたの?あらそういつ?まあそうなの。この前お宅の前に自動車が止まってたのを見たのよ。あらそうなの。あらでももう、きっと今すれ違ってももうわかんないわね。ほら見ておぼえてる?あーちょっとだけおぼえてる。かすかに記憶にあるある。でもまだ五歳とかでしょ。まだ小学生のときとかでしょ。あれ僕の思ってたのと違う!いやそれは勘違いかも。変わって無いねぇ、いやはじめましてですよね。こちら初対面のご挨拶ですよね。お噂はかねがね伺っております。かわってないのね。何だぜんぜんかわってないじゃん。すごい久しぶりだね。今どこ住んでるの?へーそうなの!じゃあ近いね。ちょくちょく帰ってきてるの?そうなんだ、じゃあそれなら良かったジャン。あいかわらずだね。あいつとか元気なの?連絡取ってる?へー!そうなの?うそーじゃあ今でもわりとそうやってしてるんだ。あいつこないだ引っ越してさぁ、全然音沙汰もなくてさぁ、あれ亮太あいつと仲良くなかったっけ?久々に会うとけっこう面白くてさぁ。またこっちにもちょくちょく来なよ。っていうか赤外線それどうやるの?どっから出てるの?あ、来た来たオーケーオーケー。いや全然何も変わってないねー笑えるね。ちょっと端に寄ろうかここ通路になるみたいよ。グラスそこ置ける?そこちょっともっと開けたほうがいいよ。皆様お待たせいたしました。新郎新婦の入場です。


今こうして何か書こうとしても、感想らしい感想がほとんど何も出てこず、古い知人たちと再会して、色々な話をして、色々なことを考えたはずなのに、そのまま一日以上経ってしまうと逆に、すべてがまるで、もう夢の中の出来事のようで、不思議なことの不思議さというのは、今それが実現しているときには、それを当たり前の事だとしか思わないのに、一夜明けたら、いきなり昨日経験したはずのすべてが一挙に、まるで信じられないと思うような特別な記憶の一塊としてしか感じられないようなものだと思う。つまり、いわば確実な不思議さといったようなものは、この世に実在しない。不思議さは常に、それを不思議と思う自分自身に対する信用ならなさとセットになっているのだ。