目を瞑る


電車で座席に坐ると、睡魔が襲ってきてたちまち意識がなくなる。気付くと寝てしまう。後になって、あれ?今寝てた?と思うくらい唐突に寝る。開いた本の同じページの行頭の数文字をさっきからずーっと見つめている。見つめているつもりで、目を閉じて寝ていることに気付く。自分が本を開いてそのページを見つめながら、それを見ているつもりが、ふいに目を閉じてそのまま意識をうしない、音もなく眠りに落ちていく一部始終を、僕の向かいの座席に坐っている人が見ている。僕の向かいに坐っている人の視線を感じて、僕が起きる、というか、起きてからそれまでの自分の姿を反芻せざるをえないような視線がさっきからずっと降り注いでいたことに気付く。向かいの人が見ているその視線の先は僕で、その行き来を目覚めた僕が見た。いや目覚めたときには、その人の視線は僕にはなく、いや目覚めたときに僕は開いた本の同じページの行頭の数文字と再会して、その後ふと目を上げると、そこに向かいに坐っている人の視線があった。向かいの人の視線の先には僕がいた。その視線の先の僕は、意識を無くしてして、いつの間にか目を閉じていた。僕は、開いた本の同じページの行頭の数文字をさっきからずーっと見つめていた筈が、ふと気付くと僕は、空白の場所からあらためて目を開けた。前方を見た。向かいに人がいた。その目は閉じている。気付いたらいつの間にか寝ていた。いや、おそらくさっきからずっと。