鳴き声


空のペットボトルはつぶして紙のように丸めることができるので、手でつぶしてみたら、ものすごい音がして驚愕する。いきなり、出し抜けに鳴った。まるで鳴き声のようだ。隣近所に聴こえるのではないかと思った。音が大きい。まるで楽器だ。高らかに鳴る。力を入れるたびに、ものすごい勢いで音が鳴る。やってもやっても鳴る。思わず録音したくなる。つぶし終わって、さらに力を加えて丸めてみる。やはりものすごい音。苦痛の呻き声のよう。断末魔の絶叫、拷問の真っ最中に、なりふり構わず泣き喚くが如くだ。しかも、力を加えて丸めても、手を放すとしだいにゆっくりと元に戻る。自分を憐れむかのように情けなく呻きながら、じつに恨めしそうな仕草で、だらしなく元の形に戻ろうとして、その途中で中途半端で醜悪な形状のまま静止する。なおかつまだ、こときれておらず、あたかも命乞いをするかのようだ。それを再び抑え付けて、憤怒の力を加え、あらためて丸め直す。両手を使って、上から容赦なく体重を乗せる。手の下で、喉を潰したような風前の灯火のようなか弱い声の泣き声が再び聴こえる。手を放すとまた、拘束の力がほどけたかのように、再びだらだらと元の形状に戻る素振りを見せる。すでに虫の息であるのに、その皺目の奥から軋みの音が、ふいごから送り出されたような微かな息遣いでいつまでも鳴りつづけている。しばらく力を加え続けた後、これでよかろうと思い、マンション地下のゴミ集積場に持って行く。集積場に設置されている、網上げられたペットボトル廃棄専用籠の中に、つぶしたペットボトルを放り込む。ところが投げ入れたら、籠の口にあたって跳ね返って、地面のバウンドして足元に戻ってきて、汚らしいエビが反ったような格好で横たわっている。それを拾い上げて、もう一度、籠の傍まで行って、籠の中に投げ入れた。ペットボトルは、籠の中に入った。七割方満杯になった籠の中で、あきらめたように静止している。その籠の下のあたりを足蹴にした。爪先で、何度か蹴りを入れて、すると籠は横に倒れて、あたりにペットボトルが錯乱した。ジュースのような甘い香りがかすかに漂い、飛沫のようなものが顔にかかった。真横に倒れた籠を、さらに踏み付けた。靴の裏で何度か、念入りに踏み付け続けた。するとマンションの管理会社の担当員がこちらに向かって走ってきた。その管理会社の担当員に僕は掃除を命じられて、さらに後でかなりきつく叱られた。