五人の女子高生


五人の女子高生が、自転車でゆっくりと走ってくる、と書いたら、もしかすると、一台の自転車に五人の女子高生が乗っているように思われやしないかと、不安なのだ。女子高生が乗る五台の自転車が、ゆっくりと走ってくる、と書いても、やはり不安で、女子高生が、五台の自転車をひとつに束ねて、それにまたがっているような、ものすごい情景を想像されやしないかと思ってしまう。だからくどいのは承知で、五人の女子高生が、五台の自転車に乗ってゆっくりと走ってくる、と書くが、それでも考えようによっては、全体として、総勢二十五人の女子高生が、合計百二十五台もの、おびただしい数の自転車の上に乗っているようなイメージにつながってしまうことを想像する。単に女子高生が自転車に乗っていて、それが五台連なって走っているということを言いたいだけなのだが、これがじつに難しい。ところで今さりげなく「単に…言いたいだけ…」と説明した内容だって、これももちろんおかしい。この書き方なら、さらっと伝わるだなんて、最初から思ってはいない。最初から承知だがこれだとまるで、女子高生の乗っている自転車が、五台分連なって走っているかのように、思われてしまうかもしれない。五人の女子高生が、それぞれ自転車に乗って、皆で一緒に走っている、この書き方では?いや、これも、五人が同じ場所にいる感じがしなくて駄目な気がする。では、女子高生が、自転車に乗っている。三浦さんと池野さんと山口さんが、並んで走っている。青山さんと先崎さんが、そのすぐ後ろを走っている。ためしに女子高生を登場人物化してみたが、これだとやはり、どうしても登場人物であることの方が強く感じられてしまい、女子高生の乗っている自転車が、五台分連なって走っている感じが、前に出てこないから駄目だろう。もう一度やらせてもらいたい。自転車に乗った三浦さんと池野さんと山口さんと、そのすぐ後ろに青山さんと先崎さんが走っていく。五人は、仲の良い友達である。これも苦しいとは思う。かつ、自転車が、五台分連なって走っている感じを出したいためだけに、五人を、仲の良い友達に仕立て上げなければならないという点で酷いと思われる向きもあろう。最後に、駄目で元々なのでもう一つ試したい。自転車で五人が走っていく。三浦さんと池野さんと山口さんと、そのすぐ後ろに青山さんと先崎さん。ゆっくりとペダルを漕いで、お互いに顔を見合わせてお喋りしながら、五人の乗った自転車がゆっくりと移動していく。これも、やはり、女子高生が対話している情景を挿入することで、自転車が五台分、連なっていることの証拠的な裏づけにしようとしている感じだ。…やはり上手く行かないが、実際のところ、現実としてはどうだったのか?現実に起こったことを、ありのままに書けば良いだけなのに、うまく書けない。実際は、五人の女子高生が、自転車でゆっくりと走ってきて、それを見ていたら、五台の自転車が、いっせいに僕の方へ向きを変えて、みるみるうちに、こちらに近づいてきたのだ。そのことを書きたいのだが。