果実


桜が、満開というか、凝縮と堆積、隆起の様相を呈している。視界のほとんどが白く吹っ飛んでしまう。花の形よりも、花の色の方が強くなって、色だけが浮かんだまま前方に砕け散っている。空間のあちこちに飛沫を迸らせつつ、あちらこちらに弾けつつ、ドリッピングされた絵の具のように、その色の箇所だけ、奥行きをまったく無くしてしまって、しかもこれだけ満開だと、奥行きのない色そのものに、空間とは無関係な隆起が感じられるというか、色であるはずなのに、その奥から違うものがあらわれるというか、形に与えられたはずの色が、形を喰い、凌駕して迸り、しかし色それ自体の成長にともなう痛みの痕跡のような隆起というか、やはり形跡が残されるというのか。現時点ではまだ、地面にもほとんど花弁が落ちてないことが、今現在の、桜の花がもつ力と硬さを感じさせたりもする。たとえ木を揺すっても何も落ちてこないほどの強さで咲いている。まるで果実のような、真っ白で固い葡萄の房のような。