起きた。

素晴らしい快晴。そして暖かい。

気温が。気温が…!

暖かい。であれば、すぐ起きなければならないだろう。

しかしよく寝た。かなり寝たようだ。

ぬくぬくとした布団の内側。まるでぬめりのある粘膜に覆われた内袋のような、いつまでもそこに居たいという欲望の反復再生産的な空間としての布団のなかで、ひたすらだらだらとそこにとどまりながら、ああこうして平日の毎朝への復讐だ。これが今自分にできるせいいっぱいだと、ひたすらかみしめて全身で味わいつくして、そこにこうして、今をむさぼりつづける。

でも結局、すぐ起きた。起きてお茶を入れる。素晴らしい快晴。そして暖かい。

気温が。気温が…!

インターネットで調べる。18度!?本当なのか?何度か調べる。何度調べても18度!

靴紐を緩めて、空気にあてた。少し干した。昨日の雨の湿りの残り度合いを指先で確かめた。

そのあとで手を洗った。そのまま顔を洗った。髭を剃った。

出かけた。壊れた靴を袋に入れて、ぶらさげて歩いた。

素晴らしい快晴。そして暖かい。

気温が…!そして靴底がなぜこんなに!こんなに割れて。

底の割れた靴の、修理を頼む。

色々相談していて、ふと気付くと、自分の後ろに大行列ができてしまう。

すいませんすいません、と、頭を下げながら店を後にする。

でも費用は、かなり高くついたのに、なんでこれほど頭を下げなければいけないのか。

新宿に行く。新宿三丁目からツタヤに行って、ミハルコフ、ベルトルッチフェリーニなどの諸作品の中から、そのへんのレンタル屋にはすでに置いてなくて、昔みて懐かしくてもう一度観たいと思ったものや、まだ観てないものないものなど、まとめて借りてきた。VHSばかりたくさん借りることになったが、こんな名作なのにVHSしかないなんて、どういうことかと思うが、それもしょうがない。

これらは僕が二十代の頃は、ほとんど全部、実家の側にあるビデオ屋に置いてあったのだから、ほんとうに今は厳しいなあと思う。昔はビデオ屋は、単に在庫してあるもので貸し借りしてるだけで、本当に気楽にやってた感じだったのだろうね。だからあんなに、レアなパッケージも、何年経ってもああして棚にあったのだ。

あれは今後も何十年経っても、ずっとあるものだと思ってたのに、結局なくなってしまって、こうして新宿までわざわざ借りに行かなきゃならなくなってしまって、しかも借りにきたら、当時と同じような、古ぼけたVHSが、そこだけにはまだあるっていうんだから、なんともばかばかしいというか、なんだかなあというか。

ツタヤの会員証の期限が切れていた。身分証明やら何やらで手間取る。ふと後ろを見ると、またもや大行列が。今日の自分は、行列の原因になるべく外出したようなものだ。まことに汝は今日、ここに来るべきではなかった。

そして、帰った。

青い空。地平線の上だけ、サーモンピンク色がのぼってきている。かき混ざらす、そのまましっとりと濃い青色が沈み、やがて暗い青に変わる。

イラスト画のように鋭い三日月が昇っている。

貝柱を入手したので、すこし刺身で食べて、残りをてんぷらにする。あまり、うまくいかなくて、やや意気消沈する。

家の中がまだ、油の匂いのする。敗北感と虚無をかかえる。

ギャツビー。今日中に読み終わってしまおう。これから読む。