二日連続の忘年会が終わって、最終の京浜東北線で午前一時過ぎの上野駅に着いた。もうシャッターを閉めるから、早く駅を出ろとアナウンスされる。がらんとした構内。誰もいない。上野駅の終わりに立ち会っている。駅を出ると、タクシー乗り場に行列していて、その周囲は閑散としている。寒い夜だが、呑み疲れた身体の内側の熱のせいでさほどの辛さではない。もう少しのもうと思えばいくつかの店が思い浮かぶのだが、今はもう酒はいいやと思って、少し歩くことにする。鶯谷の方向へ、できれば日暮里まで歩いて、東口の先の立ち食いソバ屋に行きたいと思う。あそこは24時間。そうだ、あれを食おう。行こう行こうと思って歩き出す。


しばらくして、iPhoneの充電が切れる。地図が見えなくなって、いきなり迷い始める。情けないことに、もはやiPhoneがないとまったく歩けない身体になっていた。なんとなく勘で歩き続けるが、日暮里がわからない。わからないまま、一時間ほど歩く。空車のタクシーはしょっちゅう通りかかるので、いざとなっても心配ないけど、それでもソバに執着する気持ちがますます強くなる。このままあきらめて帰るという流れには納得がいかない。


やがて、三ノ輪駅に着く。そうか、こっちに来てしまったかと思う。車道の案内板を見て、荒川区の方に向けてさらに歩く。途中、見たことのあるような気のする陸橋をくぐって、あれ、これは日暮里駅が、もうすぐではないかと思って、一瞬やや希望を見出したが、それはぬか喜びであって、その後歩いて、やっぱりまだ全然違うところだと思って、その時点で午前二時半くらいで、さすがに疲れてきた。


コンビニに入る。iPhone5の充電キットが売ってないのはわかっていて、とくに買いたいものもないので、チョコラBBを買って、店員に日暮里駅ってここからどのくらいあります?と聞いたら、ここからだと歩いたら30分か40分くらいありますね、とのこと。方向的には向こうですよね?と聞いたら、そうです、右の方です。とのこと。


店を出て、先の方向をみる。そして結局その場でタクシーを拾う。日暮里駅まで。大体どのくらいで着きます?というと、10分くらいですかね、とのこと。窓の外を見ていても、真夜中の、全然見たことのない景色が流れていって、そのあとで日暮里駅の周辺があらわれた。たぶんマトモに歩くことができていれば、上野からなら、徒歩でもおそらく30分かそこらで日暮里までは到着したものと思われるが、ぜんぜん残念な方向へ進んで、結局はよくわからない場所から自動車で来ました、というだけの結果になった。


日暮里のソバ屋。暗闇の中に、その店だけが明るく、昇り立つ湯気で暖かく湿っている。ごろごろごろごろと油の音がずっと聴こえている。。多種多様な天ぷらが、大量に、ひたすら揚げられているのだ。床は薄いベニヤ板でできていて、不安定で歩くとよろめきそうになる。巨大なスピーカーがうず高く積まれていて、それらの全てに電源が入っている。腹の底まで響きわたるような低いノイズがずっと聴こえている。やがてステージに、ジェファーソン・エアプレインが登場して、美しいさっぱりとした顔のグレイス・スリックが、グッドモーニング、ディスイズ、ニューデイ、とマイクで挨拶する。長い髪の毛が光っている。まったく新しい日々が始まる。そのときだけ、たしかにそうなのかもしれないと感じられた。ほんとうに、もう朝なのか。でもまだ外は真っ暗闇だが。これほど暗いのに、おはようと挨拶するのが、如何にも冬ということだ。それにしても揚げたての天ぷらは、つゆの中でこれほどまでにほぐれて溶けていくものか。


店を出て、駅前からさらにタクシーで帰宅。思ったよりも料金がかかった。運転手が違えば、おそらくもっと安く来ただろう。しかし三ノ輪から買えればもっと安かったはずで、わざわざ日暮里まで後退しているわけだから自業自得だ。家に着いたのが四時前くらい。


そして三連休になった。午前十時起床。年賀状をばーっと書いた。昼過ぎに出かける。荒川沿いを歩く。天気は快晴。光が低い位置から鋭く目に直接飛び込んでくるようだ。図書館に寄って、買い物してたらあっという間に夕方になって、帰りはすでに外が真っ暗になった。今日はそれであっという間に、五時半くらいだったか。