酒を飲んで、記憶がばっさり欠落することはかなりしょっちゅうあるのだけど、なんか昨日の夜に関しては、さすがに気持ちが悪い。昨夜のことを妻に聞いていて、ああそんなこと言ってたかも…みたいな、ぼやっとした記憶の形骸は少しだけあるけど、やはり、おおむねロストしてしまったと断言して良い情況である。なんだか、勿体ない。結構高い金を使っただけに、なおさら勿体ない。


と、思いながら何気なくスマホの写真を見ていたら、真っ黒な写真とビデオが各数点ずつ保存されている!おそらく帰り道に撮ったものと推測されるが、何せ真っ黒で何が写ってるのかまるでわからない。ビデオも十秒足らずの時間で、暗闇の如何にも深夜な、さーっというノイズが入っているだけの、誤操作で偶然撮れてしまったのか?と思うようなもの。しかし一篇だけ、何かが映っている映像があった。九秒くらいの時間で、ぼんやりとしたものが、暗闇の中薄っすらと浮かび上がっていて、ゆらりと動いて、さっと消えて、それで映像も終わる。かなり何度も再生して、いったい何が映っているのかを確かめた。


何度か見て、自分の手だろうと思った。自分の手が、何かグラスか何か、透明なものを持って、それをゆらりと揺すっているような映像。なにぶん暗すぎて全てがはっきりとしないのだが、片手で空いたグラスを持っているのを、もう片方の手で撮っているような感じかと思った。だとしたら、店の中で撮ったのか?しかし、なぜこれほど暗闇なのか。というか、いくら酔ってるからと云っても、そんなことするだろうか?など、色々と考えが広がり、どうも確信に至らない。手、に見えるけど、どうも違うような気もするのだ。また、グラスも、本当にこれはグラスか?とも思う。いったい、何が光っているのか。


そのあとさらにしつこくくりかえして見ていて、何となく画面を横に向けた。iPhoneは横にすると映像の天地も追従するので、そうならないように注意深く横に向けて、さらに上下をひっくり返して見てみた。そうしたら、わかった。謎が解明された。


それは僕の顔だった。めがねをかけた、僕の顔である。それをおそらく自分で撮っている。グラスのように光っているのはめがねである。暗闇のなかで、めがねをかけて、ぼんやりとした顔の僕が、その鼻先と頬とめがねをかけた目のあたりだけ、暗闇のなかに浮き上がっている。


今の僕がまったく記憶にない、先日未明の時間、その自分自身を撮影した映像ということになる。ここでは撮られる側、撮る側、観る側が、完全に同一人物でありながら、各々の行為をまったく知らなかったし、このようにして後ほど映像を通じて三者として出会うということさえ、まったく予想していなかった。


なんて言って、…バカバカしいのでやめましょうか。。