朝の京浜東北線の、大井町を過ぎてほとんどがら空きになった車内で、本を読んでいて、読んでいる箇所から連想されたほんの些細なことがふと思い浮かんで、それが意識の中心にゆっくりと固まったようになって薄暗闇のなかでそれだけを見ていながら、気付いたらすでに自分が眠っているのを発見する。眠っているけど、座席に坐って両手に本を持っている感覚も同時にある。そのとき、今朝起きたばかりの一瞬だけ覚えていたはずの夢の風景がふたたびあらわれた。眠りながら、こんなことがあるのかと思って、面白いと感じていた。でもしばらくしてまた消えた。これを書いている今も、それがどんな風景だったかは結局不明である。


のろのろとした声が聴こえる。ドアの脇に二人組が立っているようだ。たぶん僕のすぐ脇で、一人が独り言のようにぶつぶつと喋っている。


女には親切にしておかないと駄目だよ。女にはちゃんと誠意を見せないと駄目だよ。女って、女が誰なのかって話とは違うよ。そうやって、女一般でモノを語るのが、そもそも俺は一番嫌いだけどね。でもそれはそれとして、やっぱり女には親切にしておかないと駄目だよ。そうじゃないと、あとが恐いよ。女は恐いよ。いざとなったら、容赦ないよ。女には誠意を込めないと駄目だ。女に手を抜いたら、ぜったいに駄目だよ。女に適当な返事を繰り返してると、後でとんでもないことになるよ。これだけは言っておくよ。


曲と曲のあいだのインタールード的な、何人かのお喋りする声や笑い声がして、その賑わった雰囲気から次の曲のイントロがフェードインしてくるような、そういう出だしのように、さっき電車のなかで、いきなり背後の女性が連れと喋っていて大笑いしていたのがイヤフォン越しからも聴こえてきて、おー、本物の笑い声はやっぱり違うな、と思った。本物の方がやっぱり深みと奥行きがある。音として立体的な感じで、録音物とは明確に違う音だ。