ホン・サンスの「教授と私、そして映画」をDVDで観る。


あ、なんか今までと違う。ばかな人ばっかり出てくるのは、今回でもたしかにそうだけど、全体にちょっと抑制が効いているようで、端正でコンパクトでカッコいい作品ではないか。これもホン・サンスなのか?。。描きたいと思っていることをじつにスマートに、おそろしくセンス良く展開させたという感じで、これはさすがに観終わったあと「なんか洒落たカッコいい映画を観た」とか言ってしまいそうな感じだ。こういう映画を作って、そのあとに「ソニはご機嫌ななめ」とかヘウォンの恋愛日記」を作っているのであれば、それは凄いことだ。それなら、全部が凄いと言いたくなる。でも「よく知りもしないくせに」は、これより前の作品なのか。それはもう全体的にすごい。


「ソニはご機嫌ななめ」で素晴らしかったチョン・ユミが本作にも出演していて、本作で演じている役も「ソニ・・・」とじつによく似たタイプの、そういうタイプの女性であるところが嬉しいというか、笑う。しかし、今回は笑うだけではなくて、なんとも身につまされるような、まるで自分自身の何十年か前の学生時代の景色を、そのまま見ているかのような、異様な過去的リアリティを感じさせられた。「そうそう、当時はそうだった。僕以外の人間は、みんなこうだった。」と言いたくなった…などと言っては、あまりにも自分を枠外に外しすぎな言い方だが、でもそれは、観ればわかる。みんな、これは観た方がいいと思います。


チョン・ユミ演じる女学生の、じつにどっちつかずの、女として、だらしないと言えばじつにだらしない態度、というのは、なんかこういうのって、リアルだなあ、少なくとも当時の感覚であれば、こういうものだろうなあと、しみじみ思わされた。たぶん、とくに学生のときの、あるいは社会人になってまだ若い頃の女性って、恋愛とか言っても、大体こんな感じなんだろうなあと。。対象の相手なんて、目の前にいてもいなくても、結局はそんなものは、ほとんど見てなくて、根本的にもっとおそろしく抽象的な幻想的な、まだ野心とも目的ともいえないような、まだ固まっていないある種の観念だけをみていて、それゆえ現実的な行動としては、たいがい、ああいう感じになってしまうのだろうなあ、みたいな。若さゆえの冷酷さ、無関心さ、気まぐれ感。そういうリアルさを強烈に感じた。それでまた、それを作品にして云々ってところが、若いから、冷酷なのに稚拙な技しかないような、ほんとうに芸術系の学校に通う若者っていうのは、困った種族だなあ、と。。またチョン・ユミという人物がまた、そういう雰囲気を濃厚に醸し出すのだ。


というか、これがほんとうに、ホン・サンスの映画を観ての感想だろうか?ちょっとさすがに、そういう映画ではないのでは?これ、完全な勘違い系の文章では?という気もしなくもないのだがどうなのか…。


でも本作にかぎらずホン・サンス作品で描かれる、とくに男性の見事なバカさというのは、ある意味すごい。もし仮に自分が作り手なら、こういう行動を起こす人間を何度もくりかえし造形できるだろうか?そこに客観性があれば、登場人物に対して感情移入がなければできるでしょう、とも言えるかもしれないが、じっさいの話が、感情移入ゼロというのは、もし本当にそういうやり方で作ったとしたら、おそらくもっと全然違う手触りの結果になるのではないか。ホン・サンス作品はどれも基本的に、すごくクールにバカ。という感じだが、そういうのって意外と、すべてを制御下においてコントローラブルに作ってもできなくて、つまりクールもバカも目指すべきものではなくて、わりと普通に、普通の映画を作っているようなつもりで、でも決して天然とか偶然とか、そういうことでもなく、何か強い制御感はあって、では、どうやって作ったらああなるのか?は、まだ謎だ。