日比谷のTOHOシネマズシャンテで「バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)」を観る。とりあえず音楽が良いとの話に誘われて観に来たのだが、その噂はまさに真実で、全編、目の覚めるような素晴らしいドラムソロがひたすら鳴り響く。映画館の音響の良さもあり、鑑賞中最初から最後まで、その音だけで鳥肌が立つほどの素晴らしさ。


冒頭から話のさまざまな要素が矢継ぎ早に提示され、主人公や周辺の人物をカメラが途切れることなくなめる様に捉え続け、人物たちの周りをぐるぐると回り、人物の移動を追いかけてまた別の場所へすっと移動して、その場所で再びゆっくりと旋回する。ワンカットというよりは、映画すべてが一シークエンス、というかある一塊の認識、という感じで、、それはつまりすべてがある一個人固有の、この私の意識の中である、というのを想像させもするような、とにかくずーっとある強い磁場のようなものに引きつけられている世界である。


最初の三十分くらいまでは、これは相当面白い! すごいかも!と思って観ていたのだが、それ以降次第にそうでもなくなってきてしまった。なんか結局、皆が病気で、承認欲求過多で、神経症的で、暗い何かを抱えているというのが下地にあって、それで各場面でばたばたしたり、しんみりしたりしているだけな、死ぬほどよくあるパターンのヤツに過ぎないじゃん、という感じ。ツイッターだのフェイスブックだのも、なんだかなーという感じだし、終盤の展開もかなり不愉快。個人的に好みの話ではないというのもあるけど、それにしても…という感じ。


でも、なんかとにかくカメラとか、演出…っていうのか何と言うのかよくわからないけど、とにかく描く手法としては、たしかにものすごく斬新というか、あたらしい感じで、何しろこれはたしかに最新式の映画だ、最新の映画を観ているぜ、というのは確かなので、そういう面白さはあった。たまにはこういうのも観ないとな、とも思う。


音楽も、やはりドラムだけを、音楽としてこれだけ大胆に使うというのは本当に素晴らしいとしか言いようがない。舞台はニューヨークで、お話としてはブロードウェイ上演で起死回生を図る役者が主人公の話だが、この映画を観る限り、ブロードウェイで上演される芝居って死ぬほどつまらなそうだな(観客も批評もいいかげんな妄想的イメージとしてしか描かれていない)。。としか思えないのだが、ただ鳴り響くドラムだけが、まさに「現実」の質感を備えている。ほとんど映画無しで、このドラムだけ聴いているだけでも問題ないかもしれないくらいだ。つまり、やっぱりこれがニューヨークという場所の底の厚みと思う。傍らでどんなにしょうもない下らない芝居や映画をやっていても、また別の箇所では、これだけ凄まじいドラムが聴こえてくるのだから、全体的には場としてほんとうにすごいということか。