板橋


巣鴨から都営三田線に乗り換え。日は差しているが、寒い。高島平駅で降りて、あれ、板橋区立美術館に行くときって、西高島平駅で降りなかったっけ?間違えたね、そうだった、となるが、今日は赤塚植物園が目的で来ているので、まあ美術館でも植物園でも、方角および距離はほぼ一緒なのだが、高島平から歩いてもさほどでもないので歩く。


これが、あの有名な高島平団地か。高層団地と下層のショッピング地帯と人々の群像。なかなか圧巻の光景。ガンダムスペースコロニーのセリフを呟きたくなる。「その人類の第二の故郷で、人々は子を産み、育て、そして死んでいった。」


赤塚公園を抜けて、赤塚植物園へ。たしか去年、いや一昨年の十二月に来て以来だ。前も今回も、なぜわざわざ、こうして真冬の何もない時季にここに来るのかだが、そうじゃないのよ、今の時季の冬芽がいいのよ、とは妻の弁であるため従う。ほとんど枯れ野原というか、死の谷というか、色のない世界というか、そんな冬の植物園であり、寒さも強烈で、手足の体温はほぼ奪い取られ感覚を亡くしてただただ寒さを感じ続けるだけの存在と化しているようだったが、寒々とした草木もよくみるとたしかにかすかな変化はあるもので、というかほぼ意地というか極限状況で倒錯しただけかもしれないが、梅も咲いてないからこそありがたく、冬芽も硬く身をすぼめているからこそ見応えがあるように思えてくるから不思議だ。


園内の一角には植えられた草木にちなんだ万葉集の句が添えられている箇所があり、これらを読みながら歩いていると、おそろしいほどの勢いで身体から熱が奪い取られていき、芯から冷え込んで、冬の空気と身体がある意味一体化したような感覚になるというか、感覚を失って痺れたような状態が意識の三分の一くらいまで来るというか、冷気が物質として肌の上を這うというか、手も足も末端はほぼ無感覚というか、とにかくなにしろ寒いのだが、それはそれで、まあ、僕も年をとったのかもしれないが、そういう冷え切った状況を、必ずしもいやだとは思っておらず、はい、私もすっかり冷たくなって、普段より少しは物に近づくことができましたから、さしあたり今は冷たい物体同士、しずかに相対しましょうというような気持ちのままで、だまって延々と園内を回遊するばかりだった。


赤塚植物園を出た後、ついでということで駅方面へ戻って反対側にある熱帯環境植物園にも行く。ここもこれはこれで面白かった。しかし板橋区は子供が多いな。たまたまですかね。子供の声ばかり聴こえてきた感じ。ウツボカズラヒスイカズラ、コドモカズラだな。オートパイロットな食虫生物たち。


熱帯環境植物園を出てから、新河岸と呼ばれる地域の方へ歩いた。寒い。冷凍庫の中みたいな冷たさ。きれいな夕焼けで、空は晴れていて、風もないが、寒い。手前の新河岸川を越えると防波堤の土手の壁が視界を遮っている。それを昇ると、荒川である。四方、何もない、この世の遮りがオールクリアになった全方位ゼロ空間が広がる。雑木林の隙間の向こうに見える川の上を、ボート練習の船がすーっと高速で進んでいく。あとは枯れ野と空。さっぱりした。


駅前に戻って、熱燗2合×2+1でフィニッシュした。