てんぷら


家で揚げ物は、片付けや掃除が大変だし、油の匂いもあるし、色々面倒くさいので、なかなかやる気にならないが、スーパーに、ふきのとうとか、たらの芽とか、そういうのが出てくると、やはりやりたくなるので、昨日の夜はやった。それで、もうこれは、本当に美味しい、という話です。これは、子供には絶対わからないだろうなあ、大人の苦味だなあ。と言わざるを得ないふきのとう。舞茸、椎茸も、もちろんすばらしい。天ぷらは、揚げている途中の様子を、見ているだけでも楽しい。衣の内側を、油の粒子が駆け抜けていき、細かい泡が、具材のおもてがわを、右往左往、めまぐるしく循環して、今まさに食物に火が通り、ふかく熱されてやわらかく化学変合しているのが、わかる気がする。そしてそれが、確実に美味いだろうということまで、視覚的にわかる気がする。天ぷらという調理法は、もしかすると人類最強の発明かもしれない。油脂の旨み、衣の香ばしさと触感、中のふっくらとした柔らか味と温かさ、豊かな水分、そして食物そのものの味わい。それら全てが、ひとつも欠けることなく組み合わさり、調和し、シナジーを生み出す。もう云うことありませんね。かつそれらを、辛口の白ワインによって、まあまあと宥めて抑えて、躾けるかのように勢いを沈めるのだ。その存在が、まったき清澄な状態になるまで…。そして、さあ、これでお祭りはおしまい。今日から少なくとも冬までは、しばらく静かに暮らそうかとも思う。