水槽


昔からいる人は忙殺されている。新しく来た人は待機を強いられて手持ち無沙汰だ。本国から空輸されてきた新兵と前線から戻ってきたボロボロの兵隊たちが、無言で見つめ合いながらすれ違う。そういう映画のシーン的な四月の第一営業日。昨日までと同じ日常が続いているだけでラッキーなのに、誰もそのことに気付いてない。私はまるでこの椅子に座ってじっとしていることだけが今日の最重要業務みたいだ。きっといつか、役割を担う。どうせ、つまんないのだ。それでもいい。暇なのが一番嫌いだ。そうなの?俺は暇な方がいいな。うそ、私、絶対いや、耐えられない。デスクは先週までのと逆方向に向かって並んでいる。見慣れない景色。知らないオフィスに来た来客ではなくて私もここの従業員らしい。動き回っている人たちを見ながら、じっと身体をこわばらせている。水槽の傍らに立って、悠々と泳いでいる魚たちを見ているようなものだ。皆が水槽の中にいるなら、早く私もそこへ入って泳ごうと焦っている。今はそういう人間らしい。