ムーンライト


TOHOシネマズシャンテで「ムーンライト」を観る。なんだか最初から落ち着かないような、なんとも微妙な、如何にも今風というか、現代映画っぽくも感じられるような、登場人物から異様に近い場所で構えられたカメラが、くるくると周囲を回って、まさにその状況、その空間内に、ぴったりと貼り付いているような、そういう動きを見せる。ある少年が異様なまでにクローズアップされ、出てきた大人が、わけもわからず彼を庇護して可愛がり、家に招き、食事を与え、優しい言葉をかけ、水泳を教えるので、うわあ困ったかも、このまま最後まで、ずっとこうだと、そういう距離感で進まれると、それはなんとも疲れそうだな、と思うが、実際はまあ、それほどでもなく、結果的にはその後、色々とあって、まあある意味、じつに端正な、品の良い、良く出来た秀作、という感じだった。


とにかく主人公の顔のクローズアップばかり最初は見せられて、顔、ああ顔ばかりだと思っていて、それでも色々と気になる部分がじょじょに物語的にほどけていき始めてから、まあ、なんともスムーズに、こんな距離でこういう物語を作りましたかという、そういう見事な成果の確認として、これは、良く出来てるなあ、ドラマだねえ、という感想は出る。


夜の海辺で月明かりに照らされた黒人の子供たちの身体が、青く浮かび上がるという、だから私はお前を、ブルーと呼ぶよ。みたいな、劇中に印象的な言葉が出てきて、その、とてもうつくしい作劇内のイメージが、物語後半以降も、しばしば呼び出されてきて、お話の中での登場人物たちのあらわす、さまざまな物象の合間に、何か詩的としか呼びようのないものが立ち昇ってくるのはたしかだと思う。それだけでも、本作はかなりすごい作品だと思う。音楽の使い方や小道具の出し方や何かも、じつに神経の行き届いた、見事な成果だ。サントラ、家に帰ってから聴いたけど、サントラだけ聴くと全然面白くなくて、つまり映画内で実に見事な効果音として使われていることの証明だと思うが、だから色々な意味で、じつに見事な、すごくよくできた作品で、しかしむしろ、あまりにもちゃんとし過ぎているというか、これだとあまりにも優等生的な回答過ぎて、その意味でやや映画らしくはないというか、せっかくだから、わけのわからない部分へ踏み出しちゃってもいいかな、いいや、行っちゃおう、みたいな気持ちは、一切持ち合わせてない映画でもあり、でもそれはそれだろう。なにしろ、これに陶酔できるかどうか、の問題だろう。