ブレーキパッド


初老の男性二人が向かい合って食事していた。少し話しては、沈黙して、またしばらくすると一言二言話して、また沈黙する。最初は沈黙の方がずいぶん長かった。でも、俺はブレーキはギュッと踏まねえからさ、俺は。ブレーキパッドの劣化の話で話題の流れが一気に滑らかになった。やっぱりあれだとさ、相当パッドもいっちゃうんじゃないかな。そうだよ、な。モノの、回転しながら少しずつ擦り切れて消失していく有様を二人で思い浮かべながら、それを自らのペダル操作の感覚と結びつけながら、確かめ合うように対話していると、相手との共有が上手くいってることが次第に実感できて、ようやく場が安定するのだった。