眠る


つり革に掴まったまま、眠って、ガクッとなる。
ホームで電車を待つときも、改札を出て時計の下で待ち合わせするときも、ふと眠ってしまう。
ガクッとなる。膝が折れて、元に戻す。抱えた鞄が、脇から腕からずり落ちそうになる。スマホが、手からすべり落ちて、床に当たる乾いた音がする。
座席に座って、眠る。両膝が、ひらき始める。手の平が上を向いてしまう、手が開いてしまう。
オフィスの、見渡す限りすべての人が、デスクに突っ伏して寝ている。
静かな音楽が流れているから、かもしれない。
昼休みに、皆が食事をしている。向かい合って談笑しながら、ではない。
無言だ。皆、目を瞑っている。
口は動いている。噛んでいる。
でも、眠っている。
口の中を開けっ放しにして、噛み掛けの食べ物を人に見せつけながら、眠っている女性もいる。
運転手も車掌さんも、眠っている。
魚屋さんも、八百屋さんも、お肉屋さんも、お豆腐やさんも、金物屋さんも。
銀行も、薬局も、公民館も、市役所も、
眠る。眠る。
バスの運転手も、タクシーの運転手も、
ぐったりとシートにもたれて、上を向いたまま、顎を突き出して、眠る。
走行している自動車が、よろよろと蛇行しながら、やがて停止する。
あるいは、自動車同士が、衝突する。そして停止する。
壁にぶつかって、人の行列や民家にぶつかって、そして静止する。
誰もが、静かに眠っている。
皆が、よく眠っているので、とても静かだ。
そんな夢を見ている。