庶事


安酒でも、美味いのはちゃんと美味い。勿論、べらぼうに美味いとは言いませんよ。でも、これで充分だろうと言いたいようなヤツはある。逆に、プルミエクリュだのグランクリュだのが、必ず美味いと思えるわけでもないとも思うがどうですかね。食べ物次第なところはありますがね。とくに白は、そうじゃないですか。まあたしかに、あまり良いものを飲んだことのない奴に限って、そういう半可通な口を利きたがるというのは、それはわかりますがね。しかし半可通に居直って言わせていただくなら、それこそ中途半端が一番つまらない、もう自分はこの先、両極端で行こうと心に決めてます。何が極端なのかっていうと、高い酒、安い酒の両極端でございます。安いときはトコトン安酒をいただきます。高いときは、可能な限り精一杯トコトン金を出します。出来る範囲でですがね。だから中途半端なヤツにはなるべく手を出さない。心掛けとしてですがね。これが、意識的な体験の積み重ねを図るということです。まあ、高いと安いの間には必ず中間があるわけだから、AとBのどっちかばかり経験してたら、たまにはCもいいかと思って、たまにはこっちも新鮮な体験だろ、とか理屈を言い出して、それが何度か繰り返されて、次第に目に付いたところから、やたらとばらばら手を出し始めて、挙句の果てには、結局何がどうだったのかわからなくなる、というのがオチですがね。というか、だいたい、いつもそんな感じですがね。ちなみに食事はむしろ、世間に出回ってるものが、大方両極端というか、手間も金も徹底的に省いた安物か、相当手の込んだ高級品か、どちらかしか目に付かないところはあるので、食事はむしろ、中庸を狙いたいと。そこそこ手間の掛かった、そこそこちゃんとしたものを食うと。これは常にそうあるように心掛けると。これが戦略だと思ってはいるのですが、これも一度そうと決めて、そう取り組んでも、その中庸の中にもう一段階、奥まったところに深く、安物とそうでもない奴の格差の段が彫ってあるのが見えてきて、さらにその出来るだけ真ん中を狙おうと思って手を出したら、やっぱりその一品にも何段階かのバリエーションが広がっていて、と。ことほどさように、食の世界の奥深さは計り知れないものでございます。