グレッチェン・パーラト


表参道のブルーノート東京でグレッチェン・パーラトのライブ(2nd)。うれしい、ようやく観れました、まさに堪能、という感じ。何の文句もありません。メンバーはサモラ・ピンダーヒューズ(P&key)、マーク・ジュリアナ(Dr)、アラン・ハンプトン(G&B)で、「Live in NYC」との違いはピアノがテイラー・アイグスティではない点、今まで録音されたライブ音源よりも、わりと静かでひたむきに、淡々としたスタイルでいく。しかしバンドとしては安定のクオリティだ。内容もほぼ予想の範疇内だけれども、予想していたイメージの何倍もの密度のぎっしりとつまった内実で、これでもかとばかり目の前に展開されたものを受けて、ほとんど言葉はなくて満足感だけに自足する。なんか、自分でも驚くくらい、完全にふつうに、ああ好きな曲で嬉しい、ああこの曲が聴けて幸せ、ああこれも好き、みたいな。単なるその音楽のファンとして今がひたすら幸福、みたいな、始終そういう状態で過ごした。


それにしても、ボサノバとかシャンソンとかサウダージな、スキャット割合の多めな、器楽的というかつぶやき的というか、鼻から抜けるというか、声より息の方が多いというか、声が途中から吐息に変わってしまうようなあの感じが、しかし再生音源で聴くのとこうして直接歌っているのを聴くのとで、印象がほぼまったく同じというか、あの感じのままものすごい安定感で歌われることに、あらためて驚いた。スタジオでもライブ盤でも本物のライブでも、完全に同じクオリティを保って歌ってしまうのって、たいへんな安定感というか、ものすごい技量というか、盤石の繊細さ、みたいな謎の矛盾とも言いたいような凄さ。ぎゅっと眉間にしわを寄せて顔をしかめて高音部をうたうときの、その表情と発される声が、まるで乖離しているかのようにも見える瞬間さえある。


しかしButterflyもweakも本当に名曲。何度聴いても不思議。これらの既存曲をよくもまあ、こんなカッコいいアレンジに出来たものだとつくづく思う。もう、この二曲に関しては薬物を打たれたかのように、何の冷静な言葉も出てこない。僕は、Butterfly冒頭でボーカルがスキャットとハンドクラップを続けて、weakならマーク・ジュリアナが驚愕的なドラムソロを展開していて、両曲とも、しばらくして他パートが、さーっと波の打ち寄せるかのようにリズムインしてくる瞬間が来ると、ほとんど全身が溶けて流れてしまいそうになるというか、瞳孔が開いたままで心肺停止に陥りそうなるというか、ほとんどヤバイレベルにまで連れて行かれそうになる。これほどの甘美さが、この世にあろうかと思う。


客席もかなり盛り上がっていて、楽しい雰囲気で良かった。