Rock Me Baby


うまれてはじめてジミヘンを聴いたのは高校三年になったばかりのある日の深夜で、曲は偶然ラジオでオンエアされた「Rock Me Baby」だった。いきなり聴こえてきたそれに、軽く衝撃を受け、当時三鷹の駅前にあった、メジャーマイナー問わずの洋邦楽各種からプライベート盤までかなり豊富に取り扱っていたレンタル屋に行って、いくつか並んでいるパッケージから適当に借りたのが「The Wild Man Of Pop Plays Volume 2」である。


これは、僕にとっては「これまでに一番衝撃を受けたすべてのレコードの中からいくつか挙げよ」と言われたら、まず挙げないわけにはいかない盤である。しかしこのレコードを僕はいまだに所有してないのだ。当時からカセットテープに録音したものを何度も何度もくり返し聴いて、その後しばらく聴かず(たぶん…もしかすると二十代後半〜三十半ばまでは、まったく聴いてないのではないか…。カセットテープしか持ってないのだから、当然そのはず。)、その後、いつのことだったか忘れたけれどもウェブで、アルバムごとネットのどこかでダウンロードして、以降今に至るまでその音声ファイルをソースとして聴いている。


もちろん年月の過ぎ行くにつれ、さすがにもはや、常に持ち歩いて頻繁に聴く類の音源ではなくなってしまったが、たまに聴くと、やはり物凄くて、これはやはり所持しておきたいとあらためて思う。CDでもLPでもいい。とにかくこのアルバムに収録されている楽曲群の破壊力は常軌を逸しているとしか言えない。言わずもがなだが、ノスタルジーとかそんなものでは全くなくて、言葉のごくふつうな意味で、今でももっとも過激で危険で過剰で未完成なものに聴こえる。良いとか悪いとか、そんな話ではなく、足場を奪われた不安と恐怖をおぼえるというか、聴いていて思わず顔がゆがんでしまうというか、唖然とさせられるというか、なぜこんなことが…という驚きを受け止めるしかないようなものである。三十年近く前に聴いたものを、いまだに、そう思うのだ。


ところで当時なぜVolume 1ではなくてVolume 2を借りたのかというと、単にVolume 2の方に「Rock Me Baby」が収録されていたからだけれども、家に帰って期待してそれを聴いたら、これは少し、肩透かしを食らったような気がしたのをおぼえている。ラジオではじめて聴いたやつは、もっとぜんぜんテンションが高くてテンポも速かったはず。それに較べるとずいぶん普通の演奏に感じられた。しかし今になって思うが、これは僕が、初体験「Rock Me Baby」を、おそらく自分の記憶内でやたらと凄い演奏に勝手に作り変えてしまっていたのだろうと思われる。ジミによって演奏されて録音された「Rock Me Baby」(とタイトルの付いた楽曲)は、僕の知る限りモンタレーの演奏とこのパリでの演奏しかなく、ラジオではおそらくモンタレーの演奏が掛かったのだと思うが(正規音源はそれだけだから)、モンタレーの録音だって、やはり自分がはじめて聴いた「Rock Me Baby」とは、どことなく違うのである。だから、僕にとっての、うまれてはじめて聴いた「Rock Me Baby」というのは、実際にはこの世に存在しない音源と考えた方が良いのだ。