茫然


デュラスに限らず、ある種のフランス文学や映画での停滞感とか待機の感じというのは、端的に長期休暇があたりまえの世界だからこそというか、いやそんな皮相な言い方も問題だが、でも二十世紀後半の歴史の流れで、色々ばたばたと右往左往しつつ、労働の代価、お休みもそんな風に制度化されたなかで、そんななかで登場人物というものが歩み出して、あんな風にひとりで何日も同じホテルに泊まって、同じ食堂に座って、食事後は同じテラス席でぼけーっと外を眺めて、そういう1日をひたすら繰り返すみたいな。時間の守銭奴ともいえる日本人には、なかなか真似のできないところだ。働いている人でも、そうではない人でも、等しく時間フレーム内でなんらかのパフォーマンスをするのが生きることだと信じてしまっていると、ただ茫然とすることがなかなかできない。そもそも、しようと思ってすることでもない。なんだか変な味わいみたいなものに加工しないと食べられないものだと思ってしまっている。じつはもっとそのままでそこにあるものを、きちんと手にとって匂いを確かめたり口に含んでみるというか、でもそうやって「理解」しても、それはそれでまた微妙なのだろうけれども。「理解」を目指さない、ガッと入り込んで、しばらくしたら立ち去る感じ、そして後でぼやっと思い出す感じかな。