工事現場


デュラスの短編「工事現場」変な小説だ、こりゃ如何にもだ、と思いながら読み始めて、しかし読み進むうちに一気に引きこまれた。こんな感じの語り方、今の小説でありうるのだろうか。やっぱり昔っぽい、ということになるのだろうか。でもいいわ。このストイックさ。作品そのものの、まるで物怖じしない堂々した態度。最初にいきなり配置される工事現場というのが、なんとも唐突で、いきなりもやもやとして、それは物語の最後になってもとくに説明されるわけではない。そのもやっとしたものを中心とした、男女の出会いと、主に男の内面と、ホテル滞在での時間の流れ自体が、かなり細かく執拗に描き連ねられる。そもそもこの物語自体を、男女の恋愛的なものと認識してしまいたくない。ただの、描かれたこと一つ一つとしか認識したくない。語りは前半主に男性側の視点に近い三人称で、後半遅くになり女性に近づいた視点も出てくる。最初は話すべてが男性の頭の中の想像的なことだけで出来ている徹底した片思い、というか観念妄想小説なのかとも思ったが、そういうわけでもない。でもやはりこれ、恋愛テーマだからいいのかなという気もする。ラストとか、まさに名シーンという感じ。全体的に、かなり映画的とも言える。いずれにせよとてもオーセンティックな、今となってはふつうに趣味の良い観念的恋愛小説として素敵だなと、そういう良さなのかもしれない。