本日の「へたも絵のうち」

あれは、どこに写生に行ったときだったか、細い川と広い土手の景色を描きかけていたら、どこからか牛が一頭やってきて、ちょうど私が描いているあたりをうろうろします。こりゃあ一幅の泰西名画だ、よし牛も描いてやれと考えて描き加えたことがありました。しかし出来上がってみると、やっぱりおかしい。だいいち牛は一つ所にじっとしているわけはない。こんなもの加えた私が悪かったというわけで牛は消し、また元の景色だけの絵にしました。

話は脇道にそれますが、昔、活動写真を見たときは、どうも気持ちがしっくりいきませんでした。私が見たころは声の出ないものでしたが、見ていてひじょうにおかしい。たとえば動くものがじっとしていて、じっとしているはずのものが動きます。自転車で走っている人は、いつまでも自分の目の前にいるのに、後ろの動かぬはずの風景がどんどん走って行く。あるいは視点もぐるぐる変わる。こっちから見ていたと思うと、今度は向こうから見たりする。
そういう転換に順応する素質が私には欠けているのだと思いますが、いずれにせよ活動写真は、自分を騙さなければ見れないもののようです。