幸田文の「段」素晴らしい。幸田文流「バベットの晩餐会」というか、敗戦直後のことだから闇市仕入れた食材であり豪華さや洗練とかではなくてつつましく厳しいのだが、だからこそ余計にと言うか戦前からの日本の宴の作法しきたりの感覚がまだ強く息づいているようで、というよりも当初は祝いなどすることへの躊躇ためらいから始まって、それでもやろうと決めたら火がついたような勢いで準備にとりかかる、料理そのものの描写よりも場の支度を整えていく流れで読み手をがっつりと掴んで離さない魅力がある。まあ幸田文的な登場人物だから、料理人というよりもレストランのディレクター的感覚で、強力なトップダウン型采配でその場を完璧なものにしようと奮闘して、後半これでもかとばかりにぐいぐい盛り上げて、そして驚きの結末へ…。ほとんどエンタメ的と言いたくなるくらいのサービス精神すごいな。