また会う日まで

 

柴崎友香「また会う日まで」を読む。主人公の有麻は大阪在住だが、一週間だけ東京に遊びにきた。滞在中は友人の家を渡り歩いて宿泊して、日中に予定はあったりなかったりで、なんとなくふらふら東京を見て、しかし実は高校生のときから少し気になっていた鳴海という男と再会できればして、これまでの思いとかを自分なりに整理するというか、腑に落としたいという気持ちもあったはずで、思い切って連絡してみたら久しぶりに会うことになって、しかし凪子という不思議な存在感のやはり同じ高校出身の女子と偶然一緒になってしまい、有麻は滞在期間の一週間のうちかなりの時間を凪子と一緒に過ごすことになる。鳴海は近いうちに結婚を予定していて奥さんになる人はしばらく留守だ。だから別に今さら、鳴海とどうこうなるとかそういうことでもない。でも過去の記憶があって、今もここにいるのだから、知りたいことや腑に落としたいことはある。そのまま忘れてしまう気にもなれない。凪子は有麻の高校生時代を知っていて、かつての私を知っていて、でもそれが打ち解ける理由になるわけでもないし、とくべつ仲良くするわけでもないし、凪子のつっけんどんな態度は理解不可能に近く、しかしなぜか有麻の行先へ付いてくる。自分の方が鳴海に近くて鳴海を知っているという自意識、嫉妬心、競争意識は、あるようにも思うがそれだけでもない。ただ黙って見ている、静かに観察しているような感じもする。凪子は有麻とわかり合いたいとか、そんなことは考えてないだろうが、有麻の見ているものを見たいし、有麻の考えを知りたいとは思っているのかもしれない。有麻も凪子の言葉を聞いて、じょじょに凪子を知り始める。いや知ることはできないのだが、そのままその態度や行動を受け容れていく。まるで、共通のアイドルを追っかけてるファンがたまたま同じ宿泊場で共同生活しなければならなくなったみたいだ。凪子と有麻は鳴海について今後話をするかもしれないし、しないかもしれないし、話を始めかけても、結局何度か繰り返されたとおり「…ようわからん」と鳴海の口真似をするだけで終わってしまうかもしれないが、その相手の、おそらくその共通の良さを知る者同士として、ずいぶん前から暗黙のうちにそれを認め合っていた者同士として、彼女たちは一時的にであれ一緒に過ごさなければいけない。その魅力の核へ自分だけがより近付くことよりも、その良さを知る者同士が一時的にあれ連帯することの方が大事だと言わんばかりにだ。しかしそれはたぶん、連帯ではない。単に並走するだけと言った方が近い。