靴を失くして

履いていた靴をいつの間にか失くして探すという夢を見たのは、おぼえているだけでもこれで二度目だ。前回は、脱いだ靴がなくなってしまったのだが、今回は履いていたはずの靴がいつの間にか履いてなかったというもので、自分でもおかしい、ありえないという気持ちを抱えている。早朝の、線路の高架下にある駐車場のような場所だ。僕はなぜかMさんと一緒にいて、この人が夢に出てきたのははじめてのことだが、そろそろ九時の始業時刻なのでこんな場所でもたもたしているわけにはいかないと気が焦るが、靴がないのだから仕方が無い。Mさんは薄く笑って冷静さを装ったようないつもの表情で僕を待っている。とにかく時間も無いしこのまま探してても埒が明かず仕方が無いので、先の靴屋で新しい靴を買おうと思う。幸いすごく安価な靴が並んでいるのだ。ちなみに僕はナイキとかニューバランスとかあれ風のスニーカーにまったく興味がなくて、それらがさらにダサくて安っぽくなったような目の前の靴など普段なら絶対買わないのだけれど、なにしろ値段が安いので、適当な一足を手に取ってとりあえずこれでいいやと思って試し履きしようとするが、なんとその靴は靴紐を解くと、ばらばらと原型がほどけて足の下でぺらっとした一枚の布になってしまう。内側には赤くて細い紐がやたらと複雑に行き来して、それが靴紐と連動して内側から縫って靴の形を支えていたことがわかる。意外にもそんな珍しい仕様の、どこかの国からの輸入品なのか、最近の流行りなのかは知らないが、これは相当熟練しないと履いたり脱いだりするのは難しく、今の自分にこの靴を履きこなすことはできないと思う。それでさっきからずっと待っているMさんに、遅刻しないうちに先に会社に行って下さい、僕は後から行きますからと伝える。さて靴は他にもあるので、差し迫った状況回避のためにとにかく普通の何でもないやつを選ばねばとあらためて陳列棚を見渡す。どれも値段は比較的手にしやすいのだが、どれもこれも絶妙に、ああこんな靴は嫌だなと感じるようなものばかりだ。しばらくして僕の後ろに、先に行ったはずのMさんがいつの間にか戻っていることに気付く。どうやら僕を気遣って、一旦会社に行って手続きした後で中抜けしてここに来てくれたらしい。Mさんらしいと思い、親密な感じが嬉しい。