昼食

妻は午前中から出掛けたので、今日は夕方まで一人だ。しかし昼前まで寝ていた、こういうのは久しぶりだ、如何にも休日的な惰眠の貪ぼりかただが、熟睡したという感じでもない。外はいい天気。

姪の子に贈る誕生日プレゼントのでかい箱をかかえて宅配便の営業所まで歩く。箱が殺風景だからと言って、よせばいいのに妻が派手な包装紙を買ってきてプレゼント風に包んだので、そんなモロにクリスマス仕様のでかい箱を抱えて歩いていると愚かなサンタクロース気取りのおっさんになったようで気恥ずかしい。

荷物を預けて、さて昼食はどうしようかと思う。候補としては…A駅またはB駅か。しかし既に昼過ぎで、今からわざわざ移動するには面倒くさい気もする。移動時間で許容できるとしたらせめて二駅先のC駅だ。そうだC駅で久々のE店に行ってランチコースにしようではないか、あの店はたしか今年のはじめ以来だが、一人でも二人でも利用しやすく、毎度たしかな満足感と幸福感をあたえてくれる素晴らしい料理で、最初ビールで、そのあとワイン数杯でゆったりやるかと思って早速店に電話した。しかしあいにく今日はすでに満席とのこと。そういえば昨日の夜も二軒か三軒ほどの店にフラれていて、さすが連休では当日予約のハードルも高いのはわかるが、さてそれじゃあどうしようとなる。

では、いっそのことA駅前の立ち食いそばにしようか。あの店の安っぽいそばがとても好きだが、ずいぶん長らく足が遠のいている。あれをかき込んで、五分で終了、たまにはいいじゃないか。そう思いながらA駅まで歩くも、わりと天気の良い日で、これで、熱いそばなんか食べたら、大量に汗かきそうだし丼をたいらげた満腹感が如何にも重そう、何となく、それは嫌だな、もっとさっぱりしたものがいいな、何よりもビールをのみたいなと思いなおす。

ではB駅まで移動して、やはりそばか。しかも冷たいやつ。B駅は大した店が全然ないけど、蕎麦屋だけはわりと有名な店が一軒あって、せいろをさーっと食ってビール飲んで、これが最強じゃないか、いいアイデアだやったね、とC駅で下車して蕎麦屋目指して歩く。が、店が近付くにつれて、遠目にもはっきりとわかる人の行列が。…最悪だ、並んでるわ。しかしよく並ぶなそんなに行列好きかと呆れる思いで踵を返す。

じつはさっき、もう一軒思い出した。まだ行ったことのないイタリアンがあった。前に二人で飛び込みで行ったら、ごめんなさい満席なんですと断られたことがある店。B駅においてチェックしておくべき数少ない候補の一つだった。思い出してよかった、ちょっと遠いけど行ってみるかと歩き出す。十分ほどで店の前に到着。やれやれ今度こそ入店できそう。入り口脇に掲げられている本日のランチメニューをざっと見る。

そしたら、なんとなく、気が進まなくなってくる。なんかこう、どの料理も名前からじわっと迫力が滲んでいて、やや身体が引いてしまう。パスタねえ…。けっこう油っぽいよな、コッテリしてて、ボリュームもあるんだろうなと思う。なんか、そうじゃなくて、もっとあっさり軽めで、さっぱり少なめでいいのだ。腹にしっかり溜めたいわけではない。で、結局入店せずに再び歩き出してしまった。

さあ、いよいよ追い詰められてきた、どうしよう。すでに昼食難民である、もうスーパーで適当に買って帰宅かなとも思ったが、あ、そうだ、思い出した、もう一軒あったと気付く。僕の住まいから徒歩2分くらいの場所に最近、なんの前触れもなくぽつんと出来た、割烹風の居酒屋兼食堂みたいな店。周囲に飲食系のお店なんか何もない住宅地の一角で、ここで営業ってどうなんだろうと前から思っていたあの店。これも機会だし、あそこへ行ってみるかと思って、最寄り駅の方向へ再び歩いた。

帰宅と同じ道のりを経て、ほとんど自宅の目と鼻の先にある、その店の前に立つ。そのままガラガラと入り口を開けて入店した。まだ新しさが感じられる内装の清潔な店内で、ご夫婦で切り盛りしているようだ。先客に夫婦らしき男女がふたり。お一人様はこちらへとカウンターに通される。ビールをもらって、ランチメニューから注文した。

奥さんが話好きな人で、色々喋ってたら店を出るまで一時間ばかりかかった。最近外食すると大抵そうだが、総量が多すぎて満腹感がものすごい。帰宅して、夕方頃に妻が帰ってきて、その時間になっても空腹にならず、結局夜はほとんどロクなものを食べずに過ごしてしまった。