Ventriloquism


ミシェル・ンデゲオチェロの新作はカバー集でほとんどの楽曲が八十年代R&Bで、これらの楽曲たちの醸し出している雰囲気が、自分が中学くらいの頃の、ラジオのFENやテレビのベストヒットUSAなどから流れていたそれらそのモノという感じで、ちょっと気が遠くなるような…。よくもまあこんな曲たちばかり選曲して並べたものだと思う。誰の何という曲か知らなかったものもあるが、聴いたことない曲がたぶん皆無、必ず一度以上は聴いたはずと、脳内の残存物質が主張している、少なくともそう感じてしまうところが凄い。80年代というと、ヤマハのシンセDX-7の音とか、すごくリバーブかかったドラムとか、そういうサウンド面というか当時の技術に拠った印象から受けるイメージが強いけれども、それだけでなくメロディも、この如何にも80年代だと感じさせるあるコクというかテイストというかニュアンスというものがあるように感じられ、いやな言い方だけれども、新しい媚の売り方が発明されたというか、そういう媚態は新鮮だわ、新鮮さと古さの丁度いい按配だわ、みたいな感じがする。そして自分はそういうのにすごく弱いということだ。


たぶん中学1年のとき、日曜日のお昼頃、実家の風呂の脱衣所に座って僕は自分の「上履き」を、靴洗い用ブラシで洗っていた。そのときラジオのトップ40が流れていて、二位はデビッドボウイの「Blue Jean」で、一位はスティービーワンダーの「 I Just Called to Say I Love You」で、ああ、またかよ、もうこの曲の並びには飽き飽きだと思った。まったくあのときの瞬間をいまだにおぼえていて、あれから何十年経っても、自分があの瞬間の座標位置から逃れられないとは、当時夢にも思ってない。


三十年後にミシェルが選曲して演奏した曲たちは、上記の二曲が並んでる有様とは比較にならないくらい素晴らしくて、くり返し聴いてしまう。