洞窟


階段を下りてドアを開けると、洞穴のような店内が天井から等間隔でぶら下がっている頼りなさげな電球の光にほの明るく照らし出されていて、ざわめきと食器のぶつかる音と従業員たちの大きな声の反響が響き渡っていて、そこは都心の繁華街の一角にある活気に満ちたレストランで、後から後から途切れることなく客がやって来て、その中の、たった今来た一組が我々である。表情を変えずに近付いてきた給仕に話しかける、給仕は我々を座席に案内する、店の奥に導かれた我々はあらためて店内を見渡すが、予期せぬ場所の一角の席を示されてここに座れと言われて了承し、向かい合って着席した我々の右にも左にも客がひしめき合うように座っていて、言葉のざわめきが厚い層になって立ち込めていて、給仕たちは人々の間を縫うように移動しており、厨房から調理器具をがたがたと揺する音、酒がグラスに注がれる音、テーブルや椅子の軋みと床にぶつかる音につつまれている。