AT THE LONDON HOUSEの三曲


大学生のときだから、25年以上も前のことだが(うそだろ、、)、…講義室の机の下の荷物入れのところに、カセットテープがひとつ、ラベルには何も書いてなくてケースも無く裸のままで置き去りにされていた。アトリエのラジカセで再生してみたらジャズのピアノトリオの演奏だった。聴いてるうちにいつの間にか気に入ってしまって、そのカセットテープは僕が頂戴して、以来幾度となく愛聴した。きわめてノリノリのグルーヴィな演奏で、ピアニストのテクニックは絢爛で音数が多くて、曲はわりと単純な循環のやつばかりだが、それゆえに聴く者をグイグイと煽ってノリ立てまくる感じの、明確にエキサイティングな感じの演奏であった。たしか3曲入っていて、2曲目がOn Green Dolphin street だということはわかったが、1曲目と3曲目の曲名はわからなかった。しかし、ピアニストがオスカー・ピーターソンだということもわかっていたのだが、それがわかった理由は忘れた。カセットテープのラベルに書いてあったわけではないと思うが、あの演奏だから聴いただけで演者がわかったのか、今はもうおぼえてない。しかし何しろあれはオスカー・ピーターソンならではの演奏で、僕がはじめてオスカー・ピーターソンを「最高だ」と思った瞬間であり、同時に「こんな何も考えてないようなノリノリのグイグイ系もジャズなのか!」と驚いた。何となく当時はジャズに対して、もうちょっと暗くて難解でインテリ臭いイメージの先入観を持っていたのだ。しかしこれは、どちらかと言えばダンスミュージックのような、メタリックで非人間的な高速テクノのような、とくに早いテンポの三連符が続く曲の、三連内に無理やり四音ほど詰め込まれてグルグルと強引に回るところとか、4ビートというリズムが、もったりしているようでいて実は一番速くて、瞬発力であり跳躍力そのもののような、その高速の空間内を目も眩むような早業で移動して消えていく感じとか、そういうのを聴いていると、言葉にならない、ほとんど血の気が引くような興奮をおぼえたものだ。


それ以来、オスカーピーターソンのレコードはけっこう色々と聴いたのだが、このカセットテープ収録の曲がなんというアルバムのテイクなのかは、全然わからなかった。ライブ盤であること、On Green Dolphin streetが入っていること、それで絞りこめばかなり限定できるはずだが、どれを聴いても違うのだ。じつに不思議というか、不可解な思いだったが、やがて月日が経ち、そのまま忘れた。


そして時は流れて、2018年の4月のある日、電車の中でふとそのカセットテープで聴いていた曲のことを思い出した。当時と違って現代の世界にはサブスクリプション・サービスがあり、僕はその利用者だった。当時のような条件でアルバムを探すのも、今ならすべて手元で出来てしまうではないかと気付いた。オスカーピーターソンのOn Green Dolphin streetが収録されているライブ盤、大量に出てくるリストを探した。


「AT THE LONDON HOUSE COMPLETE MASTER TAKES」あった。やはり、これだった。なるほど、コンプリート盤で収録曲がすごく多い。このアルバム自体は有名だし当時から聴いていたものだが、僕が聴いたヤツではこんなに曲数が入ってなかったのだ。あのカセットテープは、当時発売されたいた国内盤や外盤とはまた別のタイミングか別の流れでリリースされたのであろうソースを元にダビングされたものだったのだろうか。それとももう少しきちんと探せば、当時であっても誰でも容易に入手できるものだったのだろうか。


いずれにしょ、その場で聴いて、一瞬うわー…となった。ほんとうに四半世紀ぶりに聴いた。ちなみにそのカセットテープの一曲目は「Tricotism」イントロのベースとのユニゾンと、テーマ後のブリブリのブギー乗りがもう好きで好きで…。二曲目は「On Green Dolphin Street」三曲目は「Thag's Dance」どの曲もそうだがキビキビ感がじつに気持ちよくて、あとドラムソロやブラシの気持ちよさとかも、これではじめて体験したのだった。


たしか、あれにはその三曲だけ入っていたのだ。