The Lost Album


コルトレーンのニューアルバム。録音は1963年、1963年と言えば、その年のNewport Jazz Festivalのライブで演奏された"My Favorite Things"(アルバム「Selflessness Featuring My Favorite Things」収録)が、僕はあまりにも好きで好きで死ぬほど好きで、このテイクを好むなんて素人臭いとかバカにされがちな感じだが、人が何と言おうが、これは何度聴いても圧倒的に素晴らしいと思っていて、まさに聴いて完全にぶっ飛べる、宇宙まで行けてしまう演奏だと思っている。エルヴィン・ジョーンズのブワっと厚みのある中に細かな異なる拍子が折り重なるように悠然と進んでいくドラムは素晴らしいものだが、ここでのドラムはロイ・ヘインズである。しかしこのときのロイ・ヘインズと言ったら、もう居ても立ってもいられないといった感じで、感情が爆発するようなドラミングで、死ぬほど熱く猛り狂っている。13分の演奏全体が空中へ舞い上がっていくかのようで、あまりのことに聴いてるこちらも意識が飛びそうになる。


そんな演奏のおかげで、コルトレーン、1963年と聞いただけで、いきなり特別な期待をいだいてしまうのだったが、果たして本作はかなり期待通りというか派手なところは少ないながら想像通りの充実した内容で、インパルス時代、未だ激烈なブロー主体になる手前の、まさに63年前後のコルトレーンという感じで、予想よりも全然いい感じだし、貴重な未発表音源の発掘という言葉は偽りじゃないと思った。オリジナル曲にきちんとタイトルが付いてないのが勿体無いくらいである。


ワン・コード上を自由にアドリブするのが所謂「モード」奏法だが、若い頃の自分にとって、コルトレーンの奏法は他ジャズと較べてとてもわかりやすいものに感じられた。若いころはロックでしかも古臭いものばかり聴いていたので、ジャズのテンションを多用したコード進行はかなりとっつき辛く感じたし、その上でアドリブされても、どこに心を留め置いてそれを聴けば良いのかわからなかった。その点わかりやすくてカッコいいバックトラックにのせてワン・ホーンで吹きまくるコルトレーンは、ロックのインプロヴィゼーションと同じようなものとして聴こえた。というか具体的に言えば当時死ぬほど聴いていたジミヘンのインプロヴィゼーションにもっとも近いアプローチとして、僕はコルトレーンを発見して、それを聴いたのだった。ジミヘン「In The West」に収録された"VooDoo Chile(Slight Return)"の衝撃を彷彿させる音楽が、もっと他に無いものかと思って、躍起になって色々探していた頃のことだ。