いま、七月なのだった。信じられないな。今週は退社が遅くて水泳もしてない。桜木町の駅前は、風が強くて、一瞬身体が浮かびそうになった。電車の中でベビーカーの赤ちゃんが大泣きしていた。乗客全員が、ぼーっと無表情のまま、その泣き声を聴いていた。僕も聴いていた。あんな小さな身体から、よくあれだけ大きな音が出るものだ。まさにその小さな存在がもつ、力の限りの声だ。あれで喉を痛めないのだろうか。虚脱しないのだろうか。やがて空間全部が、その音に満ちてぎっしりとする。ある種のサイン波系サウンドのような効果がある。目がうつろになる。両腕に暖かさと愛おしい重さを感じる。赤ちゃんは僕の腕の中にいたのだ。顔をくしゃくしゃにして絶叫していた。何かを強く訴えかけていた。僕には何もできない。柔らかく薄い毛布越しに抱きしめる力を強めたり緩めたりして、猛烈な泣き声に朦朧としながら、たちのぼってくる甘い香りを嗅いでいるだけだ。