不倫


人生において、転向を経験しない者は、幸いなるかな。
自分は、転向者だと思う。
どっちつかずの無様さをかかえたままだ。
そんな思いをかみしめる、今日この頃。
みなさま、いかがお過ごしですか
レストランで、男性と女性がテーブルに向かい合っている。
不倫の関係である。
不倫という言葉は、昔から存在するのだろうか?
それとも、テレビドラマや、ワイドショーや、渡辺淳一とかの小説とか、そんな世界から生み出されたのだろうか?
もし不倫という言葉を使わないとしたら、その男女の関係を何と表現するか。
浮気してる男女、だろうか。不貞の関係とか?
溝口健二の「近松物語」とか、成瀬巳喜男の「乱れ雲」とか
男女の不貞・不倫をテーマにした、とてつもなく素晴らしい作品たち。
幾つかのシーンを思い出しただけで、背中がゾクッとするほどである。
あの登場人物たちを、浮気な二人、とは呼びたくない感じがする。
不貞ではあるのだろう。不倫という言葉でもいい気がする。
よりにもよって、こともあろうにその相手と…なぜ?
ずるずると際限なくどこまでも堕ちていって、あらゆるキワがなしくずしになって…。
しかし、不倫という言葉は、世間ではまた違ったように捉えているのだろうか。
ともあれ不倫とは何々である、とか一般論として言うのはつまらないことだ。
誰もがそれぞれ、個別の不倫をかかえているようなものだろう。
しかしそんな屈託を知らぬ人もいるのだ。
そのような人々を、ときには愚かに感じることもある。
たとえば戦時下のフランスで抵抗を組織した人々
弾圧下の隠れキリシタン
愛するものを只ひたすら愛するだけの人たち
生き延びることが最優先ではない人たち
眩しい人たち。
彼ら彼女らに、いつまでも嫉妬していたい。