海戦


蝉は地上に出てきて木に掴まってあらんかぎりのちからで鳴いて、やがて死ぬ。彼らの生涯。木に連なって、掴まって、ひしめきあって、自意識はない。ただ鳴く。たまに飛ぶ。目が見えているのか、飛ぶ理由や目的があるのかもわからず、ただ闇雲に飛ぶ。上も下もなく飛んで、やがて例外なく、無残に落ちる。真夏の太平洋、撃墜された戦闘機のように、弧を描きながら落下、マンションの階段の踊り場に墜落、まだ息のあるうちはもそもそと足を動かしている。ひっくり返って静止している、壊れてばらばらになった身体を曝している、ヒヨドリに啄まれて、欠片となった羽根や脚の部品、あちこちに散らばる残骸。生まれてから死ぬまでずっと機械だった人。