きょうのみたもの


買い物に行く途中、通りかかった中学校の校舎から、吹奏楽の練習をしている音が漏れ聴こえてきた。ヴァイオリン、フルート、コントラバスなど管弦楽器たちの音が、演奏の準備でそれぞれ勝手に音を出している。この低音から高音までバランスよく役割分担された楽器たちの、それぞれの音の断片がばらばらと脈絡なく聴こえてくるだけで、ちょっと背筋がぞくっと来るほど良かった。たぶん休日の昼過ぎの曇り空の下を買い物の途中で、ふいに予想もしなかった音が聴こえたからだと思うが、管弦、すばらしいなと思った。



先日妻が買ってきたユリイカ濱口竜介特集を読んでいたら、濱口監督が俳優の東出昌大に、撮影の前に成瀬の「乱れ雲」と「乱れる」を観るように指示していたことを知る。あ!だからこの前、自宅でその二つのDVDを観たのか…とわかった。観たいと言ったのは妻である。あれを観たとかこれを読んだとかあそこへ行ったとか、僕はこのブログに色々書いているが、実を言うと何を観るか?何を読むか?何を観に行くか?については、自分ではなく妻の希望にしたがっていることが意外に多い。映画の公開日やテレビの放映日や本の出版日など、そういう情報は僕はあまり把握できないので、妻のサジェストに従ったり、作品チョイスや今日出掛ける先を妻が決めることはここ数年でかなり多くなった。そうなると、なぜその作品なのか?とか、いくつか続けて観る何らかの理由とか、そういうのを事後的に知ることも多くなり、それはそれで面白いところもある。


「予兆-散歩する侵略者-」をDVDで観る。これも妻が観たいと言ったのだが、理由は「寝ても覚めても」に出てた東出昌大が「宇宙人役」で出ているからか、なるほどですね。 夏帆染谷将太が演じる夫婦の住む家が緑色を基調とした面白い内部で、暗いのか明るいのかよくわからない光の諧調がすごく複雑で印象に残る。全編通じて夏帆はすごくしゃんとしていて大活躍する。最後は拳銃で相手をやっつける。夫の染谷将太は少し頼りなくて、右腕の苦痛に悲鳴を上げる声がやたらと大きくて耳に残る。ガイドの人たちは総じて自分の人間的な弱さのようなものを突かれてそれに疲弊したようになっているので、映画を観ているこちらも心が少し暗く陰鬱な思いになる。東出昌大は「寝ても覚めても」もそうだったけど、とにかく背が大きいのがすごい。こういうデカイ男を映画で観るのは久しぶりだ。染谷将太夏帆より少し背が高いくらいなので、東出のデカサがより際立つ。長いコートを着たりするとじつに雰囲気が出る。